マスラダ編ニンジャスレイヤー、その面白さの特徴と第5シーズンの展望について

小寒の候、みなさんいかがお過ごしでしょうか。

昨年もいろいろな面白いものがありました。

自分としてはいちばん面白かったのは積読崩してて読んだフランシス・ハーディングの『カッコーの歌』(これはオールタイムベストじゃないか)なんですが、新作だとたとえば『かくて謀反の冬は去り』などが非常に良くて、続刊も楽しみです。

 

さて、では今年はどんな面白いものがあるのか。

さしあたってその第一弾として、1月中の連載開始が予告されているニンジャスレイヤー第四部AoM第5シーズンを楽しみにしています。

 

そもそも、ニンジャスレイヤーはX(旧Twitter)とnoteで主に連載を行っているサイバーパンク伝奇アクション小説で、2010年代におけるベストおもしろコンテンツと言って良かろうと思います。ジャンルとしては『血界戦線』とかと同じ箱に入る作品になるでしょうか。

で、2024年時点でも普通にまだ連載してるんですが、それなりに長くやってるので現在では主人公が代替わりしてるんですよね。

ニンジャ組織の抗争に巻き込まれて妻子を失ったサラリマン「フジキド・ケンジ」の長い長い復讐の物語は第三部でひとまずの完結を見ます。そこから作中時間で10年後を舞台に、主人公にマスラダ・カイという青年を据えて始まったのが第四部〈エイジ・オブ・マッポーカリプス〉です。

 

マスラダ編ニンジャスレイヤーはシーズン制をとっており、早いもんですでに第4シーズンまで連載が続いてるんですが、フジキド三部作の各部と比べると各シーズンは短いですし時系列シャッフルのような特殊な連載形態でもないので、後追いで読みはじめてもわりとすんなり追いつけるんじゃないかと思います。 

ではそのマスラダ編ニンジャスレイヤーはどんな話なのでしょうか?

 

ピザ・タキの3人組について

ニンジャスレイヤーって作品にはいろんな要素がありますが、ひとつの切り口として変身ヒーローものであると言えます。

とくに仮面ライダーで伝統的によくでてくる概念ですが、ヒーローの拠点になる個人商店ってありますよね。フジキドは単独行動をすることが多かったのですが、マスラダ編には日常の芝居と作戦会議の舞台となる拠点が登場します。

それがピザ屋兼情報屋の「ピザ・タキ」であり、その店主であるハーフ・ガイジンのハッカー「タキ」という男です。

タキは物語開始時点では2流のハッカーですが、もちまえの生き汚さが武器で、ストリートチルドレン時代につるんでいた姉貴分をハッキング中の事故で亡くして以来、ひとりでネオサイタマの下層社会を生き抜いてきました。タキは情報屋をやるにあたっての表稼業としてピザ屋を開いたのですが、これが「ピザ・タキ」です。

タキはひとりにしておくとしょうもない小悪党なのですが、物語が進むにつれて意外にも保護者をやらせると適性があることがわかってきます。タキとピザ・タキは、いつの間にかそこに出入りするやつらにとっての“ホーム”として機能するように変化していくんですよね。

 

そしてこのピザ・タキに勝手に住み着いた、機嫌の悪い黒猫みたいな兄ちゃん、それがマスラダ・カイです。

マスラダももともと孤児で、いろいろあってオリガミ・アーティストとして身を立てることを志すようになったのですが、マルノウチ・すごいタカビルで個展を開いた際に謎の超存在サツガイが降臨、個展を訪れていた幼馴染のアユミが命を落とすこととなりました。

この時自身も致命傷を負ったマスラダは、再び眠りから目覚めた大怨霊ナラク・ニンジャに憑依されて復活、ニンジャスレイヤーとしての戦いが始まる事となります。

強者の理不尽に断固とした態度で対峙するマスラダの戦いの旅と、憎悪に塗りつぶされていたマスラダの複雑なパーソナリティがだんだんと読者に理解されていく過程が、マスラダ編ニンジャスレイヤーのメインストーリーとなっています。

 

タキとマスラダと並ぶ、もうひとりのピザ・タキの主要メンバーが、自我をもつアンドロイド「コトブキ」です。

コトブキは所有者が頓死したために狭い家屋内に閉じ込められたまま、膨大な旧時代アクション映画コレクションを見て己の精神性を確立させました。戦闘中のマスラダが壁をぶち壊した際に外の世界に踏み出したコトブキは、ピザ・タキの従業員として暮らし始めます。

治安の悪いネオサイタマの世界観のなかで、困った人を捨て置かない義の心をもち、朗らかでおしゃれを愛するコトブキは、ピザ・タキの連中の外付けの良心として機能しています。

 

ピザ・タキに集まった、時にストレート、時に屈折した親愛の情で結ばれたこの3人が、セットになる事でこの物語の主人公となっています。

 

孤児と怪物

ピザ・タキは上述の通り、元孤児の連中が集まってやってる自営業者なんですが、あわせて押さえておきたいのが公権力が衰退しきっているという点です。

フジキド三部作の時代にも公権力はそんなに強いものではなかったんですが、それでもまがりなりにもネオサイタマ市長とネオサイタマ市警は存在し、影響力は限定的ですが日本国という国家もまだ存在していました。

しかしこれらはフジキド編第三部のすぐ後に完全に崩壊し、混乱期を経てマスラダ編の時期のネオサイタマは、「ヨロシサン・インターナショナル」「カタナ・オブ・リバプールをはじめとした大企業群と、ネオサイタマ市警の刑事たちが立ち上げた自警組織「キモン」、かつてのネオサイタマ最大の犯罪組織の系譜を継ぐ「ソウカイヤ(2代目)」などが、共同で統治をおこなっています。

親がおらず国家もなく、非力な個人が酷薄な現実社会に直接対峙し、そこに住まう怪物たちと時に戦い時に交渉せねばならないという点で、マスラダ編は近作で言うと『天気の子』『ちいかわ』と同じ切り口で語る事の出来る作品ではないかと思っています。

 

ピザ・タキの連中が対峙しなければならない主要な相手、つまり各シーズンの敵についても触れておきましょう。

まず複数シーズンにわたって登場するマスラダの仇敵が、世界の混沌を加速させる謎の超常存在サツガイです。

ついで、第1シーズンの主要な敵となったのが、サツガイに力を授けられたニンジャ達の交流サークル「サンズ・オブ・ケオス(SoC)」に所属するニンジャ達で、彼らは世界を股にかけて活躍する強い個人でした。

第2シーズンの主要な敵になるのは、アラスカのシトカに本拠地を置くマフィア「過冬」です。過冬のボスであるシンウインターは、支配地域に己のルールを押し付ける領域君主でした。

国家なきこの時期の世界には、由来はさまざまですが領域君主的な存在となった軍閥は過冬のほかにも多数あります。

力ある個人と領域君主はともにこの時代の主役と言える存在だと言えますが、SoCと過冬は力あるが故に傲慢で良心を持たない、邪悪な反面教師として、ピザ・タキの連中の前にあらわれることになります。

 

さて、つづく第3シーズンと第4シーズンの主要な敵となるのが、「リアルニンジャ」と呼ばれる、神代や歴史の闇の彼方から甦った人知を超えた怪物たちです。

第3シーズンの主要な敵となるのが、旧カナダ西部を実効支配する帝国「ネザーキョウ」の支配者である“タイクーン”アケチ・ニンジャで、こいつは戦国時代の明智光秀本人です。

第4シーズンの主要な敵となるのが、長き眠りから目覚め、現代でもすでに多くの支配領域や配下を抱える一大勢力を築いている、「セト・ニンジャ」をはじめとした神代の恐るべきニンジャキングたちの同盟「ダーク・カラテ・エンパイア(DKE)」です。

 

第1・第2シーズンでは、直接マスラダに危害を加えたわけではないSoCや過冬のニンジャたちが、サツガイを探す迷惑訪問者マスラダの訪問を受け、流れで悪事を暴かれて殺されていきました。

これが第3シーズンでは北米を戦国日本のノリで支配しようとする迷惑存在・明智光秀とマスラダとの、迷惑と迷惑の頂上決戦となります。

さらに第4シーズンでは、ひとまず復讐の旅を終えて新たな人生をはじめようとしたマスラダを、DKEが自分たちの盟主を決めるための闇のゲームの討伐目標に据えた為に、今度はマスラダが迷惑をかけられる側になるという逆転が発生しています。

 

交差する世界観の横軸と縦軸

マスラダ編ニンジャスレイヤーの大きな特徴として、舞台がネオサイタマとキョートにほぼ限定されていたフジキド三部作と違い、ネオサイタマを本拠地としつつ世界の各地域をピザ・タキの連中が訪れるワールドツアー性があります。

そもそもネオサイタマは、西暦2000年のY2Kカタストロフと海水準の上昇、その後に続いた戦争、国家の衰退、新資源の発見などによって崩壊・復興・異常発展を遂げたもうひとつの未来の東京の姿です。

この「ネオサイタマ化」が、マスラダ編で紹介される世界の各地でおきているわけです。

例えば欧州ではバチカンと電子貨幣カルトが結託した「論理聖教会」が影響力を強め、北米ではUSAに代わる統治者である企業連合UCA(ユナイテッド・コープス・オブ・アメリカ)がアケチ・ニンジャの軍勢と戦争を続けており、東南アジアでは神代の魔術師シャン・ロアがジョグジャカルタに首都を置く海洋帝国を築いています。

こうした世界観の横軸の広がりは、マスラダ編ニンジャスレイヤーの魅力のひとつですね。

 

また、ニンジャスレイヤーはサイバーパンクSFであるとともに闇の歴史を描く伝奇ロマンでもあり、「何がどうなってこんな世界になってんの?」という世界観の縦軸を意外なほど大事にしています。

第3・第4シーズンのメイン敵であったリアルニンジャは、かつて神や悪魔と畏れられた存在、あるいは歴史上の偉人そのひとであり、彼らが本格的に物語に登場したことが、マスラダ編ニンジャスレイヤーにおける世界観の縦軸の語りをより豊かなものにしています。

またそれと同時に、ニンジャスレイヤーと言うシリーズの大きな魅力である現代文化の風刺・パロディもまた、はるか過去より現れた存在であるリアルニンジャとの対比により、切れ味を増しています。

神話上の存在や歴史上の偉人がインターネットを華麗に使いこなしたり、逆に惰弱きわまりないと断じて取り締まったりするだけで、常にだいぶ高水準な面白さが担保されるんですよね。

 

そうした世界観の横軸と縦軸の交差するものとして、第3シーズンの明智光秀との戦いの終盤は、マスラダ編でも白眉と言える面白さであり、これによってマスラダ編はフジキド三部作に並ぶ格を持つに至ったと言えると、個人的に思っています。

 

そして第5シーズン

さて、今月(2024年1月)より連載開始が予告されているマスラダ編第5シーズンは、ワールドツアーや神話的ニンジャとの戦いはひと段落として、あらためてネオサイタマ社会にうごめく様々な勢力の戦いを、オープンワールド/シティアドベンチャー/サスペンスホラー的に描くものとなるそうです。

詳細な架空社会を正攻法で描写するためには、血の通ったキャラクターたちがたくさん必要であり、そのために第5シーズンと言うタイミングを待ってこうした話がスタートするのではないかと思います。

 

第5シーズンの敵キャラとしては、邪悪企業「アダナス・コーポレーション」や、武闘派ヤクザ「ゾウラン・ダイ・カイ」の登場が予告されており、治安維持に責任のあるその他の大企業や2代目ソウカイヤ、そしてピザ・タキの連中との抗争が予想されます。

その他、現代文明を軽んずる平安貴族リアルニンジャ「シナリイ」が第4シーズンから続投で登場することや、マスラダが亡き幼馴染アユミの運営していた困りごと相談秘密サイトを引き継いだこと等も気になるトピックです。また、フジキド三部作の人気キャラも複数名が、人物によってはすっかり立場を変えた姿でネオサイタマを再訪するようです。

 

ひろがった視野を引き戻してあらためて描かれるネオサイタマと、そこにいかなる邪悪が潜みどのようなエピソードが語られるのか、いまから非常に楽しみにしています。

(終わり)