先日、柴田ヨクサルの大名作『エアマスター』のセールが行われ、Xにてそこそこ話題になっていました。
その時作品についていろいろ振り返りましたので、特にストーリー部分を中心にここにメモしておきます。
以前から思ってますがエアマスターって初期状況がめちゃくちゃガールズ&パンツァーと似てるんですよね。
つまり「世界が優しくないことの象徴として母親を失っている女子高生が、自分の居場所を作っていく第一歩として数人の友達を得ることが起点になっていて、その次の段階として個性ある都市を舞台に奇人変人がわらわら出てくる話」で、とくにエアマスとガルパンだと主人公+女子高生4人でチームになるとこまで共通してますね。
そのうえで、エアマスターは戦闘力があるのが主人公だけなので日常と非日常の対比が発生するのに対して、後発のガルパンはみんなで一台の戦車に乗り込んで戦うという違いがあるわけですね。
奇人変人の話で言えば、バレー部のアヒルさんチームや歴女のカバさんチームは、個性と信念の戦闘力への転用という点で非常にエアマスターのストリートファイターっぽいなと思います。
母を失った天才が主人公になってる作品だと『はねバド!』なんかもそうですね。高身長ショートカット女子というキャラデザに関してはもう一人の主人公の部長の方に分割されていますが。
バトルもの作品ってバトルものとしての形式が洗練されてくる最序盤に何をしてるのかが、振り返ってみるとその作品の個性のひとつになるよなと思っており、その点だとエアマスターの最序盤は女子高生Sとのストリートファイト込みの日常に紙幅が割かれており、異物を抱えながら続く日常は例えば『とくにある日々』のようなすこし不思議日常コメディに近い味があるよなと思います。
エアマスターが面白くなってくるのは、「ストリートファイト四天王編」の後半のルチャマスター戦、そしてその後に章ボスの坂本ジュリエッタの登場するあたりからとよく言われるところです。
このあたりと関連してなのですが、『機動戦士ガンダム ジークアクス』見た時、エアマスターの作品理解がいまさらちょっと深まったんですよね。両作品に共通するスピリットが発見できます。
ジークアクスに出てくる連中の精神性って、アマテの主人公としての特性やシャリアが木星で遭難した時のエピソードから翻訳するに、"「もうどうなってもいいや」ってなった事のあるやつは強いし、一度そうなってからが人生面白いぞ"、"だから飛び出していけ"ってことだと思います。
これを踏まえますと、なんでルチャとの空中戦から作品のギアが上がったのか(飛び出していけだから)、なぜ坂本ジュリエッタに幼少期に自殺しようとしたエピソードが語られるのか(もうどうなってもいいやだから)、そのあたりについて今さらながらに腑に落ちました。
エアマスターの作品の本筋は最序盤からストリートファイト四天王編、そして深道ランキング編へと自然に拡大してると思います。
じゃあ四天王編と深道ランキング編との間にある独立性の高い中編である「黒正義誠意連合編」と「女子プロ編」は作品においてどういう位置づけにあるのか。
「黒正義誠意連合編」はエアマスのこの時点で揃ってる要素ぜんぶで作った、めちゃくちゃ完成度の高いアクション映画的な章ですね。構造だけ抜き出してみると『バッカーノ!』の1931編(鈍行/特急)っぽいよなと思います。つまり「都市的な空間に画一的なスタイルを持つ軍隊的な集団が襲い掛かって一時は圧倒するんだけど、都市の奇人変人にかかずりあう中で徐々に勢いを減じ、後から追いかけてきたバケモノに尻尾から丸呑みにされてしまう」という話。『ブラックラグーン』のロベルタ復讐編も同様の話ですし、『ニンジャスレイヤー』第三部のニチョーム・ウォーなんかも近いかなと思います。
一方「女子プロ編」はというとこれも名編ですが、エアマスターは世界へ投げ出された主人公が友達を得ることではじまった物語ですけど、その次の段階として友達とは違う形での人間と人間の信頼を描く話としてこの位置に置いてあると言えるかなと思います。崎山香織はタッグパートナーですが友達とは違いますし、対戦相手のサンパギータ・カイとの間にもある種の信頼があってこそプロレスのいい試合が出来るってものですからね。
「深道ランキング編」は、前述のように最序盤とストリートファイト四天王編を受けて展開するメインストーリーで、その後の深道バトルロイヤルと深道クエスト、そしてラストバトルとエピローグまで一息に続いていきます。
深道ランキング編の導入にとりわけ顕著ですが、エアマスターという作品で表現される夜のほの明るさはめちゃくちゃ良いですね。社会のはみだし者である一方で弱肉強食の自然状態やヤクザの前近代的な秩序とも違う、マージナルな作品世界の描きは、格闘ものや自警団、不良などを題材にした作品では頻出だと思いますが、エアマスターにおけるほの明るい夜の質感はとりわけ大好きです。
さて、深道ランキング編では登場する都市の奇人変人の数が大幅に増え、それに伴い主人公相川摩季以外の視点パートも増え、物語は群像劇の様相を呈します。
キャラクターというものはしばしば物語から独立してそれ単体でアートとして評価できると思いますが、ストリートファイトものという縛りの少ないジャンルであることもあり、各人がそれぞれにひとつの作品・物語であるキャラたちが都市を回遊し、時に激突するのです。この際のマッチメイクの妙と異種格闘技性、曲げぬ信念のぶつかり合い、そして敗北と勝利の描きが本当に面白いです。
そう、エアマスターは敗北を描く作品です。戦いが起こればそこに勝者と敗者が生まれ、戦いを繰り返してなお負けを知らぬものなど存在しません。
エアマスターはストリートファイトものなので敗北しても死にはしません。だからこそ描かれる負けた戦士が再起するさまは作品の見所です。ただそれ以上に、作品に敗北がちりばめられている事それ自体に自分は魅力を感じます。
吹奏楽部青春ドラマ『響け!ユーフォニアム』ですとか、日常ギャグの『日常』や『男子高校生の日常』についてもエアマスターと同じものを感じているのですが、これらの作品における敗北や事故や断絶や失望を飲み込んでなお続いていく世界の肯定的な描きと豊かさを見ると、陳腐な言い回しですが見ていて元気が出てきますね。
また、深道ランキング編はインターネットの話でもあるよなと思っています。
深道ランキングはランキングなので、アングラな領域にいたすごい奴らが顕在化されて、一元的にラインナップされてしまうわけです。そして同時に参加者たちは、上には上がいるんだってことを思い知らされます。
地方で番長やってた北枝金次郎は井の中の蛙としてはなかなかの大物でしたけど、深道ランキングはインターネットなので由紀姉みたいなバケモンが召喚されてマッチメイクさせられるわけですね。そういういきなり頂点と比較される、というのはインターネットのインターネットらしさだと思います。
そして、深道ランキングのその先で深道が戦おうとしていたのが、かつての最強者たちの霊の集合体である十五漢渺茫で、これって何なのかって言ったら過去の歴史のアーカイブなわけです。
例えてみれば、カクヨムホラーでランキングのてっぺんとって書籍化もしたけど、今度はリングやら玩具修理者やらITやら狂気山脈やらと比較されるようになったでござる、というのが十五漢渺茫戦ですね。
そんなもんと比べんなよとなるんですが、そこで「じゃあ"逃げるのか?"って話だよ」ってなるのがエアマスターのエアマスターらしさです。
エアマスターに出てくる連中は、他の作品でパッと思いつくのですと『天使の小生意気』の藤木とか『ジョジョの奇妙な冒険』四部の康一君とかもそうですけど、自分よりはるかにすごそうな奴らに囲まれて、でも自己決定権を捨てないんですよね。
それはジョンス・リーにしてもそうで、弱い奴らの中でいちばん強いのがジョンスだと言えると思います。
そうしたそれまでの諸々を踏まえ、最序盤の要素から展開し深道ランキング編で大きく群像的に広がった作品世界が、もう一度主人公のもとに回帰し総括されるのがラストバトルでありエピローグと言う感じですね。
さて、そのほかに言いたい事というと。
まずそもそも、エアマスターって作品のいいところの筆頭はストーリーやテーマではなく、大ゴマと小ゴマの緩急やカメラワークと言った技巧が面白さに直結してるところだと思います。これはもう説明聞くより実際に読んで味わってみてください。
あと、ストリートファイトはそりゃもちろん面白いんですが、扉絵連載や巻末ギャグ短編とかもめちゃくちゃ面白いし好きです。
ビューティーペア→エアマスター→プリキュアという文化史があるのも、我々の生きるこの世界の謎に面白いところですね。
こんなところでしょうか。
面白い時のエアマスターはこの世の面白いものの中で最も面白いため、僕は「好きなマンガは?」と聞かれた時はエアマスターを筆頭に挙げることに決めています。
気が向いたらいつでもまたエアマスターの話がしたいと思いますし、未読の方がいたらぜひ読んでください。『谷仮面』もあわせて読むと良いんじゃないかな。
(おわり)




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