エアマスターってどんな話だったっけメモ

先日、柴田ヨクサルの大名作『エアマスター』のセールが行われ、Xにてそこそこ話題になっていました。

その時作品についていろいろ振り返りましたので、特にストーリー部分を中心にここにメモしておきます。

 

 

以前から思ってますがエアマスターって初期状況がめちゃくちゃガールズ&パンツァーと似てるんですよね。

つまり「世界が優しくないことの象徴として母親を失っている女子高生が、自分の居場所を作っていく第一歩として数人の友達を得ることが起点になっていて、その次の段階として個性ある都市を舞台に奇人変人がわらわら出てくる話」で、とくにエアマスとガルパンだと主人公+女子高生4人でチームになるとこまで共通してますね。

そのうえで、エアマスターは戦闘力があるのが主人公だけなので日常と非日常の対比が発生するのに対して、後発のガルパンはみんなで一台の戦車に乗り込んで戦うという違いがあるわけですね。

奇人変人の話で言えば、バレー部のアヒルさんチームや歴女のカバさんチームは、個性と信念の戦闘力への転用という点で非常にエアマスターのストリートファイターっぽいなと思います。

母を失った天才が主人公になってる作品だと『はねバド!』なんかもそうですね。高身長ショートカット女子というキャラデザに関してはもう一人の主人公の部長の方に分割されていますが。

 

 

バトルもの作品ってバトルものとしての形式が洗練されてくる最序盤に何をしてるのかが、振り返ってみるとその作品の個性のひとつになるよなと思っており、その点だとエアマスターの最序盤は女子高生Sとのストリートファイト込みの日常に紙幅が割かれており、異物を抱えながら続く日常は例えば『とくにある日々』のようなすこし不思議日常コメディに近い味があるよなと思います。

 

 

エアマスターが面白くなってくるのは、「ストリートファイト四天王編」の後半のルチャマスター戦、そしてその後に章ボスの坂本ジュリエッタの登場するあたりからとよく言われるところです。

このあたりと関連してなのですが、『機動戦士ガンダム ジークアクス』見た時、エアマスターの作品理解がいまさらちょっと深まったんですよね。両作品に共通するスピリットが発見できます。

ジークアクスに出てくる連中の精神性って、アマテの主人公としての特性やシャリアが木星で遭難した時のエピソードから翻訳するに、"「もうどうなってもいいや」ってなった事のあるやつは強いし、一度そうなってからが人生面白いぞ"、"だから飛び出していけ"ってことだと思います。

これを踏まえますと、なんでルチャとの空中戦から作品のギアが上がったのか(飛び出していけだから)、なぜ坂本ジュリエッタに幼少期に自殺しようとしたエピソードが語られるのか(もうどうなってもいいやだから)、そのあたりについて今さらながらに腑に落ちました。

 

 

エアマスターの作品の本筋は最序盤からストリートファイト四天王編、そして深道ランキング編へと自然に拡大してると思います。

じゃあ四天王編と深道ランキング編との間にある独立性の高い中編である「黒正義誠意連合編」と「女子プロ編」は作品においてどういう位置づけにあるのか。

「黒正義誠意連合編」はエアマスのこの時点で揃ってる要素ぜんぶで作った、めちゃくちゃ完成度の高いアクション映画的な章ですね。構造だけ抜き出してみると『バッカーノ!』の1931編(鈍行/特急)っぽいよなと思います。つまり「都市的な空間に画一的なスタイルを持つ軍隊的な集団が襲い掛かって一時は圧倒するんだけど、都市の奇人変人にかかずりあう中で徐々に勢いを減じ、後から追いかけてきたバケモノに尻尾から丸呑みにされてしまう」という話。『ブラックラグーン』のロベルタ復讐編も同様の話ですし、『ニンジャスレイヤー』第三部のニチョーム・ウォーなんかも近いかなと思います。

一方「女子プロ編」はというとこれも名編ですが、エアマスターは世界へ投げ出された主人公が友達を得ることではじまった物語ですけど、その次の段階として友達とは違う形での人間と人間の信頼を描く話としてこの位置に置いてあると言えるかなと思います。崎山香織はタッグパートナーですが友達とは違いますし、対戦相手のサンパギータ・カイとの間にもある種の信頼があってこそプロレスのいい試合が出来るってものですからね。

 

 

「深道ランキング編」は、前述のように最序盤とストリートファイト四天王編を受けて展開するメインストーリーで、その後の深道バトルロイヤルと深道クエスト、そしてラストバトルとエピローグまで一息に続いていきます。

深道ランキング編の導入にとりわけ顕著ですが、エアマスターという作品で表現される夜のほの明るさはめちゃくちゃ良いですね。社会のはみだし者である一方で弱肉強食の自然状態やヤクザの前近代的な秩序とも違う、マージナルな作品世界の描きは、格闘ものや自警団、不良などを題材にした作品では頻出だと思いますが、エアマスターにおけるほの明るい夜の質感はとりわけ大好きです。

 

さて、深道ランキング編では登場する都市の奇人変人の数が大幅に増え、それに伴い主人公相川摩季以外の視点パートも増え、物語は群像劇の様相を呈します。

キャラクターというものはしばしば物語から独立してそれ単体でアートとして評価できると思いますが、ストリートファイトものという縛りの少ないジャンルであることもあり、各人がそれぞれにひとつの作品・物語であるキャラたちが都市を回遊し、時に激突するのです。この際のマッチメイクの妙と異種格闘技性、曲げぬ信念のぶつかり合い、そして敗北と勝利の描きが本当に面白いです。

 

そう、エアマスターは敗北を描く作品です。戦いが起こればそこに勝者と敗者が生まれ、戦いを繰り返してなお負けを知らぬものなど存在しません。

エアマスターはストリートファイトものなので敗北しても死にはしません。だからこそ描かれる負けた戦士が再起するさまは作品の見所です。ただそれ以上に、作品に敗北がちりばめられている事それ自体に自分は魅力を感じます。

吹奏楽部青春ドラマ『響け!ユーフォニアム』ですとか、日常ギャグの『日常』や『男子高校生の日常』についてもエアマスターと同じものを感じているのですが、これらの作品における敗北や事故や断絶や失望を飲み込んでなお続いていく世界の肯定的な描きと豊かさを見ると、陳腐な言い回しですが見ていて元気が出てきますね。

 

 

また、深道ランキング編はインターネットの話でもあるよなと思っています。

深道ランキングはランキングなので、アングラな領域にいたすごい奴らが顕在化されて、一元的にラインナップされてしまうわけです。そして同時に参加者たちは、上には上がいるんだってことを思い知らされます。

地方で番長やってた北枝金次郎は井の中の蛙としてはなかなかの大物でしたけど、深道ランキングはインターネットなので由紀姉みたいなバケモンが召喚されてマッチメイクさせられるわけですね。そういういきなり頂点と比較される、というのはインターネットのインターネットらしさだと思います。

 

そして、深道ランキングのその先で深道が戦おうとしていたのが、かつての最強者たちの霊の集合体である十五漢渺茫で、これって何なのかって言ったら過去の歴史のアーカイブなわけです。

例えてみれば、カクヨムホラーでランキングのてっぺんとって書籍化もしたけど、今度はリングやら玩具修理者やらITやら狂気山脈やらと比較されるようになったでござる、というのが十五漢渺茫戦ですね。

そんなもんと比べんなよとなるんですが、そこで「じゃあ"逃げるのか?"って話だよ」ってなるのがエアマスターのエアマスターらしさです。

エアマスターに出てくる連中は、他の作品でパッと思いつくのですと『天使の小生意気』の藤木とか『ジョジョの奇妙な冒険』四部の康一君とかもそうですけど、自分よりはるかにすごそうな奴らに囲まれて、でも自己決定権を捨てないんですよね。

それはジョンス・リーにしてもそうで、弱い奴らの中でいちばん強いのがジョンスだと言えると思います。

 

そうしたそれまでの諸々を踏まえ、最序盤の要素から展開し深道ランキング編で大きく群像的に広がった作品世界が、もう一度主人公のもとに回帰し総括されるのがラストバトルでありエピローグと言う感じですね。

 

さて、そのほかに言いたい事というと。

まずそもそも、エアマスターって作品のいいところの筆頭はストーリーやテーマではなく、大ゴマと小ゴマの緩急やカメラワークと言った技巧が面白さに直結してるところだと思います。これはもう説明聞くより実際に読んで味わってみてください。

あと、ストリートファイトはそりゃもちろん面白いんですが、扉絵連載や巻末ギャグ短編とかもめちゃくちゃ面白いし好きです。

ビューティーペア→エアマスター→プリキュアという文化史があるのも、我々の生きるこの世界の謎に面白いところですね。

 

こんなところでしょうか。

面白い時のエアマスターはこの世の面白いものの中で最も面白いため、僕は「好きなマンガは?」と聞かれた時はエアマスターを筆頭に挙げることに決めています。

気が向いたらいつでもまたエアマスターの話がしたいと思いますし、未読の方がいたらぜひ読んでください。『谷仮面』もあわせて読むと良いんじゃないかな。

(おわり)

死神、ピザ屋に帰還/祝 ニンジャスレイヤーAoM物理書籍 2026/1/30発売!

ニンジャスレイヤーの現行シリーズであるAoM(エイジ・オブ・マッポーカリプス)の物理書籍版がついに刊行される運びとなりました。

これが本当に面白くて大好きなので、紹介記事を書いておきたいと思います。気になったらぜひ読んでみてください。

 

ニンジャスレイヤーとは

念のためニンジャスレイヤーの概要を書いときますと、X(旧Twitter)とnoteで連載を行っている奇特なweb小説です。

現実世界とは少しだけ違う歴史をたどった近未来を舞台に、歴史の闇からよみがえった怪人「ニンジャ」達の暗躍と、ニンジャを殺すニンジャ「ニンジャスレイヤー」の復讐の戦いを描く、サイバーパンクニンジャアクション小説ですね。

お話しそのものも普通に宇宙一面白いんですが、SNS上で連載してるという形式も現代的かつ他にあまりないもので、楽しみ方の感覚的にはweb小説とソシャゲの中間的存在という感じがします。

 

さて、ニンジャスレイヤーと言う作品は、先代の主人公フジキド・ケンジの物語(トリロジー)が2010年に当時のTwitter上で連載開始、コミカライズが同時に3作連載され、2015年にはトリロジーの第一部がだいぶ怪作なアニメ化をされるなど、メディア展開面でも大きな盛り上がりを見せていました。

ところが2016年のキングレコードの組織再編に伴って玉突き的にトリロジー第2部のアニメ化企画が中止となり、その頃からメディア展開は徐々に収束に向かう事となりました。

 

シャレにならないタイミングでの企画の中止だと思いますが、執筆陣はめげずに作家活動に打ち込み、フジキド編の完結後も新主人公マスラダ編(AoM)をスタートさせ、Twitterでの連載を継続しました。

さらにnoteの有料マガジン機能を使ったオンライン小説雑誌を構築、サブストーリーや設定解説を中心に膨大な量のテキストの執筆・公開を行い、生活と執筆の基礎となるファンコミュニティの確保・維持を達成しました。

diehardtales.com

 

こうして積み上げられた可燃性の文章カラテの膨大な蓄積に、いま再び火がつこうとしている、それがこの度のAoM物理書籍刊行というイベントになるわけです。

 

もちろん自分は継続的に連載を追いかけてるので、メディア展開があろうとなかろうとずっとおもしれえなあニンジャはという感想なんですが、とは言えXでの連載とnoteの有料サイトだけだと手を出しかねてる潜在的読者がいるであろうことは想像に難くありません。

この傑作シリーズが世に広く知られる機会が増えることは、誠に喜ばしいことであるなあと思う次第であります。

 

AoMという作品の特徴について

それでは、マスラダ編ニンジャスレイヤー、AoM(エイジ・オブ・マッポーカリプス)とはどんな作品なのか、あらすじと主要登場人物と作品の特徴を説明してみましょう。

 

あらすじ

フジキド・ケンジの戦いから10年、当代のニンジャスレイヤーである青年マスラダ・カイは、幼馴染アユミの死の原因となった謎の超常存在サツガイの行方を追っていた。情報屋のタキ、アンドロイドのコトブキとの出会いを経て、マスラダの復讐の旅は世界へと広がっていく…!

 

主な登場人物

マスラダ・カイ:当代ニンジャスレイヤー。ピザタキに住み着いた機嫌の悪い猫。デリバリー地獄。高い感受性とふてぶてしさを兼ね備える。

タキ:情報屋兼ピザ屋。まあまあカスだが保護者適性の高さが発覚。ハッキングの腕は良いとこ一流半だが世間知や生き汚さを含む総合力で勝負だ。

コトブキ:親切で勇敢なアンドロイド。服が好き。膨大な旧世紀アクション映画ビデオを鑑賞しているうちに自我に目覚めた。

サツガイ:謎の超常存在。ニンジャの前に無作為にあらわれ、新しい能力を授ける。その行方を追う者はマスラダだけでは無い。

サツバツナイト:先代ニンジャスレイヤー、フジキド・ケンジ。国際探偵を自称。すげえ強くてクソ真面目で出現エリアが広大。

ナラク:謎の大怨霊ナラクにとりつかれたものがニンジャスレイヤーとなるのだ。性格が悪くて物知りなおじいちゃん。

 

作品の構成

フジキド・トリロジーは時系列シャッフルで徐々に本筋に迫っていく独特の構成が特徴でしたが、AoMは普通に時系列で物語が進行します。

エピソード10話分くらいをまとめてひとシーズンとして章立てされており、現在シーズン5の連載中です。シーズン1~3はひとつながり感が強いですね。

 

この度書籍化されるのはシーズン1相当分ですが、テキストの量からして2分冊されるのではと予想していたのが1冊にまとまっていて、ボリュームはだいぶありそうです。

ただまあボリューミーと言っても結局は2冊分であって、web小説の書籍化で2冊同時刊行する事たまにありますけどそれが1冊になってるようなものだと思います。

 

また、上述の通りAoMのメインストーリー以外に膨大な量のサブストーリーが有料マガジンに存在しており、このなかから選りすぐりのめちゃ面白エピソードが再編成されて、各シーズンの合間に刊行されるのではなかろうかと予想しています。

 

作品の特徴

さて、ニンジャスレイヤーAoMの特徴、あるいは美点についてなんですが、広がったワールドと明確化したホームの対比にあると思っています。

 
ひろがるワールド

トリロジーの舞台はおおむね、貪婪と混沌の近未来都市ネオサイタマと、キョート共和国の地下型積層都市ガイオンに限られていました。

その10年後を描くAoMでは、ネオサイタマの歪んだ先進技術の流出と新資源エメツの発見により、世界中の主要都市がネオサイタマと同様に魔都へと変貌しています。

それぞれに個性的な世界の都市を次々に訪れていくワールドツアー性は、AoMの見所の一つと言えます。

 

さて、ニンジャスレイヤーと言うシリーズは近未来を舞台にしたサイバーパンクであると同時に、歴史の闇の中で暗躍してきたニンジャについての歴史伝奇でもあり、何がどうしてこうなったという歴史的背景への意識が意外なほど強い作品でもあります。

近年のエンタメにおける歴史×SFの想像力を持った作品群は2つの方向性があると思っておりまして、ひとつは『オルクセン王国史』をはじめとする異世界だけど地理が地球そのまんまな作品群、もうひとつは本邦のソシャゲ界の雄『Fate/Grand Order』のとくに第2部の主要な舞台となる「異聞帯」です。

オルクセン方面は「地理と国際関係」、FGO方面は「都市と歴史上の人物」が世界観の軸足になっていると思いますが、そうした両要素がグラデーションするなかに『汝、暗君を愛せよ』や『かくて謀反の冬は去り』といった異界化した歴史世界を描く作品群が存在しています。

都市を舞台としつつもそれが異聞帯のような完全に独立した小世界になっていないニンジャスレイヤーAoMは、上記の両要素間のFGO寄りの中間に存在しています。とくにAoMシーズン3ではメイン敵が実はニンジャだった明智光秀であり、異聞帯性が牙をむいていると言えるでしょう。

www.fate-go.jp

 
寄る辺なき若者たちの集まり

さて、ニンジャスレイヤーはある種の変身ヒーローものであると捉えても間違いのない作品ですが、児童向け特撮の定番である本拠地という要素は、フジキドが単独行動するトリロジーには存在していませんでした。

AoMにおけるピザタキはまさしくこの特撮番組の本拠地であり、店主のタキは『仮面ライダー』で言うところのおやっさんに相当します。

 

また、AoMで描かれる世界では、日本と言う国家はすでに崩壊しており、世界を領域的に区分する国家と言う枠組みが衰退、世界の各エリアで覇をとなえる大都市と世界を股にかける大企業がしのぎを削っています。

そうした秩序を保証する前提の失われた世界で、復讐者マスラダ・ストリートチルドレンあがりの情報屋タキ・主なきアンドロイドのコトブキの、身寄りを失った若者たちのチームでありホームとなるのがピザタキであるわけです。

こうした寄る辺なき若者たちのホームの描きは、『天気の子』や『チェンソーマン』の早川家まわりと同ジャンル性、同世代性を感じさせますね。

 

広がったワールドに対して明確化した帰るべきホームが対比され相互に強調する事、両者の間に存在する長い長い距離が、AoMという物語を奥深く、また鮮やかなものとしていると言えるでしょう。

天気の子

天気の子

  • 醍醐虎汰朗
Amazon

 

まとめ

フジキド・トリロジーはアクション小説における金字塔的存在ですが、AoMもまたそれに勝るとも劣らない、力強い面白さと新鮮さを備えた傑作であり、こうしてピザタキというたいへん好感度の高い新主人公チームが世に広く知られる機会が出来たことが、うれしくてなりません。

また、ネットでつながる邪悪ニンジャサークル「サンズ・オブ・ケオス」のアホどもや、地獄よりカナダに出現して弱肉強食の帝国を築く明智光秀、人知を超えた魔神”リアルニンジャ”の同盟「ダーク・カラテ・エンパイア」など、この記事では書ききれなかった敵キャラやサブキャラの魅力、そして彼らの熱いカラテも、作品には詰め込まれています。明智光秀まわりはどうかしてるくらい面白いのでなんとか世に広めたい…!

 

AoMの最新シーズンであるシーズン5は、AoMで過去最長になる予定ですが、このままうまく進めば過去一で面白い傑作シーズンになる可能性が十分にあり、これからAoMを読みはじめるひとにも期待をもってこのシリーズを読み進めてもらえます。

太鼓判でおすすめできる、マジで面白い大傑作シリーズです。この機会にぜひ触れてみてください!

 

なお

フジキド・トリロジーはおおむね全話が無料で公開されていますので、前作主人公の長い復讐の旅について興味がある方は、だれでもここから読んでもらう事が可能です。

フジキド編は連作短編になっており各話の独立性が高いので、気になる要素やキャラが出てくる話だけピンポイントで読んでみても良いですね。

diehardtales.com

また、フジキド・トリロジーの第一部からエピソードを抜粋してうまいこと1冊にまとめてみせたリマスター版第一部が秋に刊行されていますので、ニンジャスレイヤーってどんな小説なの?と興味を持った方には入門向けとしてこちらもおすすめです。

また、入門向けと言う点では現在も連載が継続し、第二部のクライマックスに差し掛かろうとしている余湖・田畑版コミカライズもおすすめです。カラーライズ版も制作が進行しており、なかでもひときわ名作なのが「ラスト・ガール・スタンディング」なので、ここから入ってみるのもアリだと思います。

このライトノベルがすごい2027に向けた展望

恥ずかしながら今年はこのラノ2026にうっかり投票し忘れてしまったもので、今のうちに来年を見据えて準備をしておきたいワケです。

幸い、秋から年始にかけて好きな作品や楽しみな刊行予定が充実してましたので、今のうちにメモっておきたいと思います。

 

 

石川博品『アフリカン・ヴードゥー・ジュージュツ』9月29日

2010年代を駆け抜けたライトノベル冒険家 石川博品の最新作はアフリカの架空の国家を舞台に世代を越えて紡がれる、端正な格闘冒険小説!

人から生まれながら時に人の手に余り人を不幸にする、世界に満ちるすべての悪しき力を、ジュージュツで体を鍛えて乗り越えよう(※どうにもならん時もある)! ドージョーを通してファミリーも広がっていくよ!という亀仙流マインドに溢れているのが大好きですね。

ジュージュツの技名をナゲ・ガリ・キメ・ガタメに抽象化して絞り込んでおり、これによってスピーディーに進行する格闘描写とそうした文章技巧も見どころです。

 

 

黒留ハガネ『崩壊世界の魔法杖職人2』11月25日

このラノ2026でも投票期間締め切り直後の話題作としてプッシュされてましたね。実際たいへん面白いです。

ゼロ年代にちょいちょい見かけたオレ魔法SFの後継的な作品だと思うんですが、いわゆるなろう系における生産職無双と言う強い形式の採用し、さらに要所でサブヒロイン救済のドラマを置くことで、マニア向けでない普遍的なエンタメに仕上がっています。

救ったサブヒロをすぐ放流して舞台に残さなかったり、主人公と接点のない実力者が画面外で活躍しては画面外で死んだりするなど、抱え込む情報をコントロールして物語を身軽にしてるのがテクニカルでにくいですね。

 

 

寝舟はやせ『入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください2』11月29日

怪異満載のモンスターマンションに住む青年と怪談好きの隣人との日常を枠物語にした連作短編ホラー。

訳アリ心霊マンションとか百鬼夜行抄とか、おばけと生活を共にする作品って結構ありますが、本作はそれらの中でももう半歩踏み込んで主人公の精神の摩耗度が高く、引き返せないラインを越えた先、バッドエンド後の世界を垣間見せてくれるような奇妙で新鮮な面白さがあります。

そして2巻ではその主人公よりももっとダメそうな奴が登場!どうなっちゃうのか!?

 

 

本条謙太郎『汝、暗君を愛せよ2』12月10日

かつての架空戦記の生態系ニッチを受け継ぐ、なんというか"パラレル地歴フィクション"みたいな作品に同時多発で良作が生まれてて、本作もそれです。地理条件が西ヨーロッパまんまなのが特徴ですね。

18世紀フランスみたいな国の王様に転生した主人公が、言ってみりゃ歴史の自然な苛烈さを戦後日本人の感覚でスポイルする話なんですけど、主人公がめちゃくちゃ苦労してるのでついつい応援しちゃいます。将来的にもしも最悪のルートに入った時に備えて、奥さんが痛い思いをしないよう先んじて自分でギロチンを発明しておくエピソードとかお労しすぎる。

主人公の一人称語りがたいへんな名調子で面白さを増してるのと、あと作品中で最頻出する単語である国名"サンテネリ"の響きの良さなど、言語センスにも優れた作品だなと思いますね。

 

 

ロケット商会『勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録Ⅷ』1月17日

同作者の『勇者のクズ』ともども、1月より同クール競演でアニメ放映が予定されている作品。

魔物の軍勢との人類の生存をかけた内憂外患の最終総力戦を描く軍事ファンタジーなんですけど、主人公たち懲罰勇者隊は自殺的任務に投入される超有能な無法者たちで、ファンタジー版の特攻野郎Aチームやエクスペンダブルズのよな作品です。

若気の至りとハードボイルドをいい塩梅で折り込んだ細身の近接超暴力男が主人公やってる点も、これぞアクションラノベの王統を継ぐ主人公像で評価高いです。

シリーズが続くことで脇役も充実してきてますが、一方で総力戦も煮詰まってきており、緊張感のある展開が続いています。新刊が楽しみ。

勇者のクズも面白いですよ!こっちはカラテ込みの異能バトル性がたくみ!

 

 

B・ボンド F・N・モーゼズ 本兌有 杉ライカ『ニンジャスレイヤー Age of Mappor-Calypse』1月30日

サイバーパンクニンジャ活劇『ニンジャスレイヤー』の、フジキド編(トリロジー)の続編となる、マスラダ編"AoM(エイジ・オブ・マッポーカリプス)"がついに書籍化!

トリロジーのラストから10年、世界中の大都市にネオサイタマの異形のテクノロジーが波及した世界がAoMの舞台です。その一方で、基本的に単独行動・神出鬼没だったフジキドと違い、新主人公マスラダ・カイにはピザ屋のピザ・タキという本拠地が存在します。

広がったワールドと明確になったホームの対比が、AoMの特色でありトリロジーから強化された面白みだと言えます。

第1巻(シーズン1)のメイン敵組織が、ネットを介して私的に繋がっている邪悪ニンジャサークルなのも新鮮で、ひろく読まれて欲しいですね。

 

 

また、すでに刊行予定ラインナップからは削除されてしまいましたが、一度は12月の予定にタイトルがあった『かくて謀反の冬は去り』3巻にも期待しています。

古墳時代の日本がいきなり近代化させられたような特異な歴史世界をえがく架空歴史ファンタジーでして、その絶妙な違和感と味わいのある異文化描写がもう面白いんですが、ストーリーが動き始めるとこれがまたガツンと面白い政変ブラックコメディ、という傑作です。

石川博品の代表作である異文化コミュニケポリティカル学園ラブコメ「耳刈ネルリ」三部作と、上述の「汝、暗君を愛せよ」シリーズとのちょうど中間にある作品と言えるでしょうか。

 

 

その他ですと、このラノ2026に『辺境の老騎士』で知られる支援BISの新企画が動いている事が触れられていました。支援BISは世界レベルのファンタジー作家と認識しているので、こちらもたいへん楽しみです。

 

 

あとはとくだん刊行予定はないのですが、ゲーム世界転生ものの第一人者であるウスバ―の「ミリしら転生ゲーマー」シリーズ、職業倫理のしっかりした霊能力者たちの仕事ぶりを描くカクヨムホラーの秀作「よみごさん」シリーズ、韓国産の他種族冒険ファンタジーの大作「涙を呑む鳥」シリーズの三作は、出版されていないだけで小説の続きそのものは存在が確認されているので、続編の刊行を首を長くして待っています。

 

 

イラストレイター部門については、まだ個人的に強い思い入れのある作品はありません。

ただ、未読のシリーズですが、ダンまちの21巻はめちゃくちゃかっこよくて本屋に行くたびにびっくりしています。

また、1月末刊行のニンジャスレイヤーは、巻末に数十人分のラフ絵つきキャラ紹介が付くそうで非常に楽しみにしていますね。

あとtoi8が働きすぎていてもはや怖いです。

 

 

こんなところでしょうか。

まだ見ぬ傑作との出会いにも期待しています。2026年も良い年になりますように!

アイカツ無印×みんなのうた メモ

相互させて頂いてるKaoluさんが以前こんなことを言っておられまして。

 

それから半年、たまにこの件について考えていたので以下にメモしておきます。

 

星宮:北風小僧の寒太郎 わりと迷いなくこれだなと思いました。かんたろー!という合いの手が聞きたい。

霧矢:手紙 拝啓十五の君へ これもすぐ決まりました。手紙と言えばですしね。

紫吹:ドレミの歌 「ドはドーナッツのド」からじゃなくて、「さあ おけいこを はじめましょう」からはじまるバージョンがあるんですけど、紫吹蘭と言えばいちご世代の鬼教官なのでそちらでお願いします。

有栖川:しっぽのきもち 愛の歌なので有栖川おとめ向き。ふわふわふりりん。

藤堂:サラマンドラ 藤堂ユリカはサラマンドラだと思う。

北大路:花 滝廉太郎のやつね。暮部拓哉のHANAもあってると思うけど。

一ノ瀬:火星のサーカス団 どんな曲だっけ?と思って聞いてみたら、ああこれかピッタリっすねと思いました。

神谷:忍者ネギ蔵 なんも思いつかないので「忍者 みんなのうた」で検索した。ラテンのリズムのかっこいい曲なので神谷しおんには向いてると思います。

三ノ輪:さとうきび畑 強いて前向きになったりしない純粋な悼みと鎮魂の歌が歌えるのってやっぱ三ノ輪だよなと思うので。

音城姉:切手のない贈り物 歌を届けたいというのがモチベーションになってるやつと言えば音城姉なので。

冴草:コンピューターおばあちゃん これはまあ、ですよね~といった感じ。

風沢:メトロポリタン美術館 意外と言われないと思いつかない組合わせだったかな。でもあってると思います。

姫里:この広い野原いっぱい 野原のイメージと、ひとつのこらずあげるっていうインフレした感じが姫里マリア向きじゃないかな。

音城妹:あなたの声 最初は気球に乗ってどこまでもがいいかなと思ってたんだけど、あれみんなのうたじゃないんですね。/あなたの声であれば、歌詞の内容的に音城姉へのアンサーみたいになるのでよいかなと思いました。

神崎:月のワルツ 月の歌ってみんなのうたにめっちゃたくさんあるんですけど、中でも有名かつ神崎美月にあいそうなのと言うとこれ。

夏樹:虹色ラブレター 美月さんとおなじ諌山実生の歌から。素直でフットワーク軽い善性が夏樹みくるに合ってるんじゃないでしょうか。

大空:勇気ひとつを共にして なるほど鉄の勇気を受け継いで明日に向かい飛び立ちそうなタイプ。

氷上:まっくら森のうた 藤堂→サラマンダー、神崎→月のワルツ、ときたら氷上→まっくら森ですよ。

新条:おはようクレヨン パッと思いつきましたけど、105話のGood morning my dreamからの連想ですかね。

紅林:トレロ・カモミロ ベタも良いところですが紅林はベタを受け止められる女。

天羽:アップル・パップル・プリンセス 谷山浩子シリーズから選んでも良かったけど今回はこっちで。

黒沢:ピースフル! ダンスって言うとこの辺かしら。

藤原:紅葉 北大路さくらが春なら藤原みやびは秋よ。

栗栖:ありがとう・さようなら 栗栖は友達を巻き込んでいくプロデューサー気質なやつなので卒業ソングが合う。

大地:ドナドナ 農家なので…。

白樺:夢待列車 なんかこの曲lucky train!じゃない?って思ったので。

堂島:テトペッテンソン おしりかじり虫はあえて避けてのテトペッテンソン。

マスカレード:赤鬼と青鬼のタンゴ あのふたりで聞きたいのと言えばでパッと思いつきました。

 

 

その他あれがあいつらで聞きたいとかあります?そうっすね…

ソレイユ:だんご三兄弟 これはまあ順当。

星宮×大空:黒ネコのタンゴ&アスタルエゴ 実は黒ネコのタンゴはみんなのうたではないようだけどこの際まあ良いだろ。どっちかというと星宮が黒ネコのタンゴ、大空がアスタルエゴ、という感じかな。

ぽわプリ:花は咲く これも実はみんなのうたではない。スタライクイーン勢には仕事をさせたいですね。

北大路×姫里:天地の声 合ってるけど、へたにひとりで歌わせるとやばい感じが出るのでデュエットで。

風沢×姫里:ラジャ・マハラジャー これはもう絶対見たい。

ラノベクラスタにも児童文学クラスタにもおすすめ!闇の魔法学校”スコロマンス”

YA児童文学とライトノベルの境界部分ってかなりあいまいなので、わたくしたまにYA児童文学をこのラノとか好きラノとかの人気投票で投票してまして(死票にはなるよ)、2020年には有沢佳映の『お庭番デイズ』を投票しましたし、来年になったら投票しようと思ってるのがスコロマンスです。

 

“スコロマンス”、もしくは「死のエデュケーション」シリーズは、『テメレア戦記』『ドラゴンの塔』などで知られるアメリカのファンタジー作家ナオミ・ノヴィクの手による小説で、第1巻『闇の魔法学校』(A Deadly Education)と第2巻『闇の覚醒』(The Last Graduate)の2冊が翻訳されています。

 

具体的にどんな話かと言うと、まずジャンルで言えばポスト「ハリー・ポッター」の学園ファンタジーです。本邦の作品だと『七つの魔剣が支配する』と同じジャンルの作品と言えますね。

また、悩めるティーンエイジャーの女性の一人称視点で物語が語られ、友情や恋も描かれるので、話の骨格は少女小説だと言えるでしょう。

ここまではオーソドックスな面白さの構造なんですけど、本作の特徴は舞台となる学校の設定と主人公のキャラクター性が両方ともめちゃくちゃ濃いことで、これにより異様な迫力を伴った作品世界が出現しています。

 

本作の舞台となるのは虚空に浮かぶ魔法学校“スコロマンス”です。

例えば先行作であるハリー・ポッターのホグワーツにも、トロールやら大蛇やら大きな犬やら、学校内でエンカウントするモンスターが登場していましたが、スコロマンスではホグワーツの100倍はモンスターがポップします。

しかも教室はもちろん、寮の自室やシャワー室、学食のビュッフェの中にも当たり前のようにモンスターが潜んでおり、常に油断なく目を光らせ、クラスメイト同士で協力し、対抗措置を確保したうえで生活をしなければなりません。が、にもかかわらず、スコロマンスで4年間を過ごし卒業するまでに、実に3/4の生徒が命を落とします。

 

およそ教育機関としての責任を果たしていないように見えるスコロマンスですが、恐ろしいことにスコロマンス外で魔法使いの子どもが育った場合の生存率はそれ以下なために、この状況が許されています。

おそらく、澤村伊智の比嘉姉妹シリーズで、かつて大家族だった比嘉家の人々が次々に妖魔の手にかかり、物語開始時点で姉妹ふたりを残して全滅しているのと同様か、さらに悲惨なことが、世界中の魔法使いの家庭で起きているのだろうと理解しています。

スコロマンスは、この状況を憂慮した強力な魔法使いたちが、子供たちを守るための結界で守られた教育機関としてつくられました。しかし、世界中から集められた魔法使いの子どもの存在は魔物たちにとってあまりにも魅力的で、スコロマンスの結界の周囲に強大な魔物が押し寄せるという結果を招きました。現在のスコロマンスの学校施設は、徐々に壊れていく設備や増えていく結界の抜け穴を修理することもままならぬまま、だましだまし使い続けられています。

 

その他、世界観の特徴としては、ハリポタや呪術廻戦などと同様に、現代社会の裏の世界として魔法使いの社会が存在している点や、スコロマンスの教育システムがすべて自動化されていて教師をはじめとした大人が存在しない点などがありますね。大人が出てこないあたり、十五少年漂流記や蠅の王のような学生漂流ものの変種ととらえることもできる作品と言えそうです。

 

一方で、これもまた面白いのが主人公の造形です。

ヒロインのエル(ガラドリエル)は、協力し合わねば生き残れないスコロマンスにおいて、学校内のはぐれ者となっています。

エル嬢はニューヨークをはじめとした有力派閥の出身生徒に取り入り、卒業まで生き延びた上で外の世界でも引き立ててもらいたいという気持ちは大いにあるのですが、適性があり習得している魔術が大規模破壊魔術に極端に偏っているため、自分を売り込む機会が全く訪れず、常に怒りと僻みを抱え込んで自室でじたばたしています。

また、この過酷な世界で生きてきたものとして、エル嬢は生きていくには酷薄でなければならないという規範意識を持っているのですが、それでいて彼女の心の奥底には生来の善性と高貴さ、他者への共感性が眠っているため、自己矛盾で常にイライラとしています。

 

ほんとうに常にキレ散らかしてるんですよね、エル嬢。

でもスコロマンスの世界は本当に最悪なのでその怒りは七割がた正当です(残りの二割が照れ隠し、一割が誤解)。

スコロマンスの世界は、常にモンスターの脅威にさらされた余裕のない世界で、魔法使いたちは大都市ごとに共同体をつくって互いの身を守っていますが、有力な共同体とその他の共同体には大きな格差が存在し、また有力な共同体同士の緊張関係もあり、それら大人の世界の歪みがスコロマンスの生徒たちの中に再生産されています。

スコロマンスの生徒たちの大半はきっと、こんな生き方したくてしてるわけじゃないと思いながら、状況に迫られて、自分たちの醜さから目をそらして生きているんだと思いますが、そうした学生たちとエル嬢の生き方の対比、そして変化が、本作の見所になっていると思います。

 

エル嬢を見ていて連想したキャラクターとしては、ぼっちと言う点ではわたモテの黒木智子や僕ヤバの市川京太郎や俺ガイルの比企谷八幡、常に苛立っているという点では魔術士オーフェンのオーフェンや勇者刑のザイロあたりがありますね。あと学パロになったら夕景イエスタデイみたいになるんかなあなどとも思いました。

 

 

ほんとうに面白いシリーズで、児童文学クラスタにもラノベクラスタにもおすすめです。

三部作構成の完結第3巻も原作は2022年中に出版されているため、いずれ3巻の日本語訳も出るものと思われます。2巻ラストの次巻へのヒキも鬼だったので、楽しみで仕方がないですね。

失われた傑作『ブラックロッド』、復活

今年の7月に最終巻が出たヒロアカの外伝『ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミアILLEGALS-』の原作担当をしている古橋秀之(敬称略)は本来は小説家でして、近年だとSFショートショート集『百万光年のちょっと先』を2019年に出版したほか、主にライトノベルレーベルでたくさんのすぐれた作品を書いています。

 

古橋秀之は、作品の質の高さ、その割に売り上げには繋がっていなさそうな不遇さ、同門*1の秋山瑞人(『E.G.コンバット』『猫の地球儀』『イリヤの空、UFOの夏』など)とのセット扱いなどから、00年代にラノベが好きだった者にとっては深く記憶に刻まれた作家なんですが、その古橋秀之の代表作とされることが多いのが、『ブラックロッド』シリーズ三部作(ケイオスヘキサ三部作とも)です。

 

ブラックロッドはまさに伝説のラノベと呼ぶにふさわしい作品で、どの辺が伝説かと言うと、もちろん面白さ・評価の高さ・語れるポイントの多さ・後進への影響みたいな点でも伝説的なんですけど、そもそも入手難易度が高いんですよね。

ラノベがすぐ絶版になるのはみなさんご存じかと思いますが、ブラックロッドはそこそこ古い作品なこともあって電子書籍化しておらず、そのうえ3作目のブライトライツ・ホーリーランドはAmazonの中古価格で5,000円を超えています(2022/12/11現在)。そりゃあ買おうと思って買えない値段ではないですし、図書館で取り寄せて読む方法もありますが、やはり未読の人がわざわざ読むにはハードルが高い。

 

ブラックロッドはマジで面白いので、名前を耳にすることはあれど実際に目にすることはないツチノコみたいな作品になっている現状は大変遺憾に思っていたのですが、ようやく来年2023年2月5月、ブラックロッドが復刊されることになりました(復刊の話自体は2021年からありましたけど、立ち消えになることもありうるなと、その時点では完全には信用してませんでした)。

下記が作者による進捗状況公開サイトです。

ブラックロッド2023|古橋秀之|note

どうやら3部作を合本版として立派な装丁のハードカバー1冊にまとめるようですね。

電書化についても、物理書籍の刊行から数ヶ月の間を開けてからにはなるようですが、行う方向で詳細検討中のようです。

 

さて、では具体的にブラックロッドがどんな作品なのかと言いますと、まずジャンルとしては、しばしば「オカルトパンク」と説明される作品です。

異常発達した魔術が文明の礎になった異形の近未来における、積層魔術都市「ケイオス・ヘキサ」を舞台とした、アクションと都市描写をかっこいい造語が彩る作品で、他作品を例に出すと『血界戦線』とか『ニンジャスレイヤー』みたいなやつです。

 

また、ラノベ史上の位置づけで言うと、電撃小説大賞(当時は電撃ゲーム小説大賞)の第2回大賞受賞作品ですね。

現在ラノベレーベルの最大手として君臨している電撃文庫ですが、レーベル初期に持っていた主なアドバンテージがふたつあって、ひとつはちょうどデザインワークにパソコンが本格導入された時期だったことによる垢ぬけた装丁、もうひとつがレーベルの新人賞である電撃小説大賞の異常な打率の高さです。

第2回大賞受賞作であるブラックロッドは、電撃文庫のブランド力の礎を築いた作品であり、またその後の『86-エイティシックス―』や『錆食いビスコ』のような電撃文庫の設定濃い目のSF活劇路線の起点と言えるでしょう。

 

ブラックロッドは非常に個性豊かな作品ですけど、とはいえコンテンツを広く見渡したり、あるいはオカルトとサイバーパンクを要素ごとに分けて考えれば、『血界戦線』『ニンジャスレイヤー』『斬魔大聖デモンベイン』といった後発作、あるいは『ニューロマンサー』『魔界都市〈新宿〉』『帝都物語』『仙術超攻殻ORION』『リュカオーン』といった先行作が思いつきます。

そうした同系統の作品と比較した時のブラックロッドの魅力って何かなと考えてみると、思いますに、三部作なところですね。

1作ですべてが完結する単巻の作品でなく、大きなドラマの存在する長編作品でもなく、それぞれにテイストの異なる三つの作品が存在して、それぞれの方向から作品世界に生きる人々の姿を照らし出しているところに、このシリーズの良さがあります。

ということで、復刊をひかえているので軽くですが、三部作それぞれの特徴を見てみましょう。

 

『ブラックロッド』は、魔都ケイオス・ヘキサで暗躍する魔人ゼン・ランドーを、名前と感情を封印された公安局の魔導特捜官“ブラックロッド”と、私立探偵ビリー・ロンが追う、と言う犯罪捜査ものです。

猥雑な都市描写のケレンに目が行きがちですが、練りあげられたプロットやガジェットの活かし方の巧みさに真の価値があるというか、それらはすべてアイデアを使う時の練りこみがすごいという同じ美点の表出の仕方が違うだけ、という感があります。

 

『ブラッドジャケット』は、大規模な吸血鬼禍がはじまらんとしているケイオス・ヘキサの下層社会を舞台とした墜落系ボーイミーツガールです。

若者に向けた暗黒青春小説としての作品の雰囲気づくりと、語彙選択は、前作から更なる洗練を見せています。

それでいてメインヴィランの“超弩級聖人”ハックルボーン神父のあまりのパンチの強さも大きな魅力ですね。

 

『ブライトライツ・ホーリーランド』は、都市の終わりを目前にしたケイオス・ヘキサ最後の日々を、最悪のトリックスター存在 “嗤う悪霊”G・G・スレイマンを軸に描く群像劇です。

冒頭の、嵐の魔神〈百手巨人〉vs機甲折伏隊の切り札・重機動如来〈毘盧遮那〉の決戦を皮切りにパワーワードは三部作最大量となっています。

しかし、本作の最大の見どころは、そうしたパワーワードを支え、基本は端的で過不足なく、しかしここぞで詩情をみせる文章力ではないでしょうか。

なお、復刊に際して「ブラインドフォーチュン・ビスケット」と改題されるとのことです。

 

 

どんなラノベもみなジャンルの生んだ成果であり、おいそれと失われてはならないものですが、ブラックロッドはスーパー傑作なのでとりわけ強くそう思います。

アクセス不可領域として失われていたブラックロッドの達成が、今回の復刊で再び触れられるようになることは本当に喜ばしいと思いますし、そもそもめちゃくちゃ面白いので、2月5月になったらぜひみんな買って読んで話題にしてみてください。

 

 

(それはそうと『タツモリ家の食卓』も『ブラックロッド』と同等に好きなので、ブラックロッド復刊の勢いでこちらも復刊・電書化して、バルシシア・ギルガガガントス15‐03Eが大人気になり、シリーズの刊行が再開して4巻が出て完結もして、ついでに劇場アニメ化もすればいいのにと思います。みんなバルシシア殿下を知るんだ。 )

 

*1:法政大学 金原ゼミ

「クララ白書とかマリみてみたいなやつないの?」「最近だとお庭番デイズかな」他

相変わらずニンジャスレイヤーばっかり読んでる生活を送っているのですが、甘いものばっかり食べてると今度は塩っ気が欲しくなる理屈で、平行して少女小説とかが読みたくなるわけです。

 

少女小説といってもいろいろあるわけですけど、とりわけ狭義の少女小説というか、 氷室冴子『クララ白書』とか今野緒雪『マリア様がみてる』みたいなやつですね、そういうのって少女小説レーベル内だと意外なほど見つからないので、その周辺も広く探していく事になります。

クララ白書 (集英社文庫―コバルトシリーズ 52C)

クララ白書 (集英社文庫―コバルトシリーズ 52C)

  • 作者:氷室 冴子
  • 発売日: 1980/04/10
  • メディア: 文庫
 
マリア様がみてる1 (集英社コバルト文庫)

マリア様がみてる1 (集英社コバルト文庫)

 

 

 

さて、ちょっと前までだと「クララ白書みたいなやつない?」と言われたら「ユーフォの原作読もうぜ」って言ってたと思いますし、その前だと文化部棟青春コメディ『マイナークラブハウスへようこそ!』を挙げてたと思います。

 

 

じゃあ今は?となると、今年どんぴしゃの作品が出版されました。

有沢佳映の『お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記』です。 

お庭番デイズ  逢沢学園女子寮日記 上

お庭番デイズ  逢沢学園女子寮日記 上

 
お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記 下

お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記 下

  • 作者:有沢 佳映
  • 発売日: 2020/07/16
  • メディア: 単行本
 

逢沢学園女子寮では「ピープル・ヘルプ・ザ・ピープル」を合い言葉に掲げて、学校内での互助を寮の文化として継承しているのですが、それにあたっての情報収集担当者をとくに「お庭番」と称していました。

中学1年生の戸田明日海(アス)は、ルームメイトの2人とともにお庭番を拝命する事となり、学校のトラブル周辺をうろうろしては役にたったり、たたなかったりする事になります。

寮を舞台に、先輩から変なミッションを押しつけられ、ルームメイトとともに奔走する様はまさにクララ白書・マリみての正統後継だと言えますね。

また、その他の特徴としてはたいへんな登場人物の多さがあります。

巻頭に寮生50人を含む登場人物紹介リストが配置され、その後はたいした説明もなく物語の中に脇役・端役として顔を出してくるので、読んでる間は巻頭の登場人物リストを首っ引きし続けることになります。

でもそのぶんだけ、徐々に名前とキャラが一致してくるにつれて物語から受け取れる面白さが上昇していきますから、ただでさえ品質の高いエピソードである第4章(下巻後半部分)は相乗効果でべらぼうに面白いです。

また、中1の主人公から仰ぎ見る先輩達に、たまさかに年齢相応の子供っぽさが垣間見えるところも味わいが深いです。

 

有沢佳映はどっちかというと寡作な作家ですけど、他に出版されている、それぞれの事情で修学旅行に行けなかった居残り組のささやかな冒険『アナザー修学旅行』と、極めて高度なリアル小学生描写が見ものな問題児アベンジャーズ『かさねちゃんにきいてみな』はどちらも良い作品で、力量のある作家さんである事は間違いないですし、『お庭番デイズ』はある種の風采・風格のある作品だと思うので、是非とも続編に取り組んで欲しいと思うところです。

 

 

さて、1作だけしかおすすめできないのであればお庭番デイズですけど、もっと読みたい人のためにどんどん挙げてみます。

レギュレーションは、10代の女性の学生が主人公の、超常要素なしの面白かった作品とします。

 

  

 まずは『若おかみは小学生!』の原作でも知られる、大人気作家令丈ヒロ子作品から『かえたい二人』と『なりたい二人』の姉妹編。

かえたい二人

かえたい二人

 
なりたい二人

なりたい二人

  • 発売日: 2014/05/23
  • メディア: 単行本
 

『かえたい二人』は、転校を機に「普通」になりたいと思ってる穂木と、クラスでぶっちぎりで浮いている陽菜が、お互いの立場を守るために協力する事になり・・・という女子ふたりの紐帯を描いた話です。

『なりたい二人』は、本当はひと一倍おしゃれに興味があるけど自信が無くて背中を丸めて生きてきたちぇりが、ぽっちゃりした幼なじみのムギと一緒に学校の課題について調べることになり、そのなかで気持ちを整理し自分の夢がなんなのかを捉えていく・・・という話ですね。

出版順は『なりたい二人』の方が先なんですけど、まずキャッチーでエンタメ性の高い『かえたい二人』を読んでから、次に心の変化が良く書けててラストの味わいが深い『なりたい二人』に逆流するのもおすすめできると思います。

生まれたての子鹿みたいだったちぇりが、ムギのIKEMENムーブにさらされ続けた結果ついに捕食者としての片鱗を見せるの元気があってよろしいなあと思います。

 

  

続いて『かえたい二人』『なりたい二人』と同様にイラストレーターの結布が表紙絵・挿絵をつけている『トリコロールをさがして』。作者の戸森しるこは比較的書く手が速いほうの作家だと思うんですけど、書いてる作品がマジで全部面白いのですごいです。大作家か?

トリコロールをさがして (ポプラ物語館 80)

トリコロールをさがして (ポプラ物語館 80)

 

『トリコロールをさがして』は、2歳年上の幼なじみが最近になっておしゃれに目覚めてしまい、すっかりかまってもらえなくなってしまった事が不満な小学4年生を主人公に据えた物語。

中学年以上向けの本なので字がでっかいんですけど、必要な文章が必要な分量で、必要な物語が必要な頁数で描かれていて、全てが丁度良く出来てます。

唯一、挿絵の量だけは過剰なんですけど、それがまた「結布イラストをこんなに拝める!」となって良いです。

隠喩的な演出もバシバシ決まるし、物語の末尾において姿勢を良くして大股で未来へ進んでいく主人公の姿がなにより良いですね。

  

物語の終わりにあらわれる「姿勢の良さ」というと、思い出されるのが『よろこびの歌』です。

よろこびの歌 (実業之日本社文庫)

よろこびの歌 (実業之日本社文庫)

  • 作者:宮下 奈都
  • 発売日: 2012/10/05
  • メディア: 文庫
 

 『羊と鋼の森』で本屋大賞受賞作家となった宮下奈都の音楽小説で、新設の私立校に集まった女子学生たちを描く連作短編で、それぞれに挫折を抱えながら徐々に前向きになっていく様は、冬の日だまりのようにじんわりと暖かいです。

 

   

次に挙げる2作品はともに学級内闘争を描いた作品です。 

さくらいろの季節 (teens' best selections)

さくらいろの季節 (teens' best selections)

  • 作者:蒼沼 洋人
  • 発売日: 2015/03/06
  • メディア: 単行本
 

  『さくらいろの季節』は、かつての親友が学級内政治を支配しているクラスで、地味な善人という立場でおとなしく生きてきた主人公が、転校したもうひとりの親友や孤高の転校生との関係の中で、自分はどう動くべきかすごい悩ましい、と言う話です。

作者はこのデビュー作1作しか出してないので、ぜひまたなんか書いて欲しいですね。

王妃の帰還 (実業之日本社文庫)

王妃の帰還 (実業之日本社文庫)

  • 作者:柚木 麻子
  • 発売日: 2015/04/04
  • メディア: 文庫
 

 『王妃の帰還』は、公開裁判の末に頂点から転落したクラスのプリンセスを、成り行きで自分たちのグループに受け入れる事になって正直迷惑している4人組が、厄介払いのために人気回復大作戦を画策する、という話です。 

 

『さくらいろの季節』は少女趣味、『王妃の帰還』はガールズ趣味とでも言うような読み味の違いがありますが、両作品ともに非常にドラマ性の高い盛り上がる作品です。『王妃の帰還』はとくにジェットコースター感が強いですね。

 

 

最後に、これもまたひとつの正統後継、第1回 氷室冴子青春文学賞 大賞受賞作『虹いろ図書館のへびおとこ』。

虹いろ図書館のへびおとこ (5分シリーズ+)

虹いろ図書館のへびおとこ (5分シリーズ+)

 

学校でいじめられた主人公が町の図書館に入り浸る話で、読んでて猛烈に小学生に戻って図書館通いをしたくなります。 

 抑制されたメイン部分から、一転してエピローグがダダ甘のヘテロだったりするところも好きですね。

 

 

 さしあたりこんなところでしょうか。

有沢佳映と戸森しるこは少年主人公ものも含めて書いてる本全部が面白いので、もしあなたが読んでみて気に入ってお金と時間があるなら、どんどん読んでいくと良いと思います。

 

近日刊行作品だと、12月刊の戸森しるこ『すし屋のすてきな春原さん』と村上雅郁『キャンドル』、それにもちろん11/19の『大人だって読みたい!少女小説ガイド』が楽しみですね。

大人だって読みたい!少女小説ガイド

大人だって読みたい!少女小説ガイド