ガンダムビルドダイバーズRe:RISEについて/良作における最上

本日最終回が公開となる『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』がめちゃくちゃ面白いので、見ていない人のためにどんな作品なのかここに紹介しておきます。

 

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概要と舞台

ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』(以下リライズ)はガンダムビルドシリーズの4作目にあたります。

 

ガンダムビルドシリーズでは、1作目・2作目が描いたガンプラバトルという枠組みに、作品世界を一新した3作目ではそこにオンラインRPGと言う要素が追加されました。

その3作目の同一世界の2年後を描いた本作は、更に「ゲームの世界が本物の異世界と繋がってしまった」という導入による異世界転移もの という要素を加えています。

 

異世界転移ものと言う類型は、web小説界隈とそこからのメディアミックスによって、ここ数年にわたって流行が続いているジャンルです。

一方で異世界に転移して巨大ロボに乗るアニメというのは、聖戦士ダンバイン魔神英雄伝ワタルの系譜に連なるものであり、リライズは流行と由緒との二つの文脈に支えられて存在している作品と言えるでしょう。

 

紛い物たちの再起と隔絶を超える祈り

リライズという作品の物語を突き動かしているのは、なんらかの不本意な状況にある人物たちの再起の物語です。

これはもちろん主人公ヒロトもそうで、これまでのビルドシリーズの主人公が明朗で挑戦心あふれたいかにもな少年向けエンタメの主人公像を踏襲していたのに対して、ヒロトは心の傷を抱えてひとり旅を続けてきたダウナーな人物です。

また、ヒロトを含めた4人の仲間たちは、成り行きから前作の主人公チームと同じビルドダイバーズというチーム名を名乗る事となります。これがまた、彼らがヒーローたり得ない紛い物の寄せ集めであるという事を強調してきます。

そして、紛い物のヒーローが本物のヒーローに、バラバラだった4人がひとつのチームになっていくのと前後しながら、作り物だと思い込んできた異世界が本物であった事があきらかになり、おもちゃのガンプラが本物の戦闘を行い、さまざまな人物がそれぞれの再起を行います。

 

一方で、リライズという作品の世界を彩っているのは、隔絶を超える出会いや祈りです。

リライズの作中世界の面白いところは現実世界・ゲーム世界・異世界という3つの世界の存在です。そして、隔絶を超える出会いや祈りがもつロマンチックさが、本作では繰り返し繰り返し描かれます。

この隔絶は、ゲームプレイヤーであるビルドダイバーズと異世界の民フレディやマイヤといった世界間の隔絶、あるいはエルドラ地表と月面の敵本拠地、現実世界に戻ると互いにそこそこ遠方に住んでいるビルドダイバーズのメンバー達や、ヒロトの幼なじみで弓道部員のヒナタが的にめがけ放つ矢、漁師の息子カザミと船上の父といった遙かな距離としてあらわれます。

また、ヒロトの抱え込んだ事情に踏み込みきれないヒナタや、脚本家と翻訳家としてそれぞれの仕事を抱えるヒロトの両親など、物理的な距離は近いはずの者同士であっても、そこには隔絶の存在と、それを超えていくものがあること描かれています。

 

そして孤独な旅を終えて再起し、「誰かのために頑張れる」者になれたヒロトのもとで作品の縦軸と横軸が交差し、3つの世界で出会ったすべての人の思いや願いがつながっていくことになるのです。 

 

良作における最上

さて、twitter上などで観測できるリライズの感想からは、本作が2期(15話以降)ないしは1期終盤から面白くなってくる、あるいは20話から盛り上がってくる、スロースタートな作品であるとの評判がうかがえます。

確かに序盤のエンタメ度合いは抑えめでした。しかし1期がつまらなかったのかというとそれは違うと思います。

 

リライズという作品は描写が丁寧で全体の計画もしっかりしているのが特徴です。

そのため序盤の個別のキャラクター担当回も、パル編の4~5話、カザミ編の6~7話、ヒロト編の8~9話と、複数話をセットでエピソードをつくる事が多く、キャラクターが掘り下げられる反面、盛り上がりとしてはタメの回が出来てしまう事は良し悪しあったとは言えるでしょう。

 

ですが、とにかく全体の計画がしっかりしている作品なので、無駄な描写はまるでなく、一貫してある程度の面白さが維持されています(ただし初期カザミの迷惑ぶりがキツすぎる、みたいな瞬間はあるかも)。「あえて言及するほど盛り上がってるわけではないけど、その割に不思議なほど毎週楽しみにしてるな」というのが10話あたりでの自分の感覚でした。

 

これが、1期クライマックス12話を受けた13話オフ会回あたりから、明らかになった物語の本筋とそれに挑む主人公たちのチームの姿勢が結びつき、完全に面白くなってきます。とくにお調子者のカザミの変化は本当に良く描けていて、作品の見所と言えるでしょう。

そして、19・20話のヒロトの過去編(あまりにもむごい)を皮切りに、チーム全体の成長を描く事で終盤まで温存しておく事が出来た各種の大ネタがバシバシ決まるようになると、めちゃくちゃに面白くなります。

そんな終盤に至っても、序盤から変わる事無く人物描写やモチーフの取り扱いは精緻に行われ、結果作中に描かれてきた全要素が連結して作品を見る者の感情を揺さぶります。

アクションのある回は死ぬほど盛り上がりますが、無い回も変わらぬ満足感があります。

 

リライズは間違いなく傑作ですし、すでにして名作であるといってもかまわないと思います。

ただ、めざましい新規性はなくとも良質で良心的で、作劇におけるごまかしがなく、序盤からの丁寧さを一貫したまま終盤になっての盛り上がりがすごくて、更に言うと前作ファンへの目配せも効いていて、なおかつここに来てプラモの売れ行きも急上昇しているリライズという作品を評するにあたって、少々持って回った言い方を許してもらえるのであれば、「良作というカテゴリーにおける最上」という表現を使いたいですね。

 

 そのほか言いたい事はありますか?

リライズの物語要素は、思い返してみるとすごく大長編ドラっぽいです。

そもそもSFマインドのある少年主人公ものという生態系上の地位が共通してはいるのですが、それにしても獣人の住む別世界で戦争に巻き込まれるという大枠の部分で動物惑星、おもちゃが本物の兵器として使われる点では宇宙小戦争、隔絶を超えるロマンチックという点では宇宙開拓史を思わせますし、品質においても互するものと言えると思います。

 

前作の要素が作中で出てきますので、可能であれば前作も押さえた上で見るとなおのこと良いとは思いますが、一方でこのリクくんというのは前作主人公なんだなと言う事だけわかっていればそれで十分にリライズの物語を楽しめるだろうとも思います。

 

おすすめできる良い作品で、見ればきっと面白いので、縁があれば是非見てくださいね。