「クララ白書とかマリみてみたいなやつないの?」「最近だとお庭番デイズかな」他
相変わらずニンジャスレイヤーばっかり読んでる生活を送っているのですが、甘いものばっかり食べてると今度は塩っ気が欲しくなる理屈で、平行して少女小説とかが読みたくなるわけです。
少女小説といってもいろいろあるわけですけど、とりわけ狭義の少女小説というか、 氷室冴子『クララ白書』とか今野緒雪『マリア様がみてる』みたいなやつですね、そういうのって少女小説レーベル内だと意外なほど見つからないので、その周辺も広く探していく事になります。
さて、ちょっと前までだと「クララ白書みたいなやつない?」と言われたら「ユーフォの原作読もうぜ」って言ってたと思いますし、その前だと文化部棟青春コメディ『マイナークラブハウスへようこそ!』を挙げてたと思います。
じゃあ今は?となると、今年どんぴしゃの作品が出版されました。
有沢佳映の『お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記』です。
逢沢学園女子寮では「ピープル・ヘルプ・ザ・ピープル」を合い言葉に掲げて、学校内での互助を寮の文化として継承しているのですが、それにあたっての情報収集担当者をとくに「お庭番」と称していました。
中学1年生の戸田明日海(アス)は、ルームメイトの2人とともにお庭番を拝命する事となり、学校のトラブル周辺をうろうろしては役にたったり、たたなかったりする事になります。
寮を舞台に、先輩から変なミッションを押しつけられ、ルームメイトとともに奔走する様はまさにクララ白書・マリみての正統後継だと言えますね。
また、その他の特徴としてはたいへんな登場人物の多さがあります。
巻頭に寮生50人を含む登場人物紹介リストが配置され、その後はたいした説明もなく物語の中に脇役・端役として顔を出してくるので、読んでる間は巻頭の登場人物リストを首っ引きし続けることになります。
でもそのぶんだけ、徐々に名前とキャラが一致してくるにつれて物語から受け取れる面白さが上昇していきますから、ただでさえ品質の高いエピソードである第4章(下巻後半部分)は相乗効果でべらぼうに面白いです。
また、中1の主人公から仰ぎ見る先輩達に、たまさかに年齢相応の子供っぽさが垣間見えるところも味わいが深いです。
有沢佳映はどっちかというと寡作な作家ですけど、他に出版されている、それぞれの事情で修学旅行に行けなかった居残り組のささやかな冒険『アナザー修学旅行』と、極めて高度なリアル小学生描写が見ものな問題児アベンジャーズ『かさねちゃんにきいてみな』はどちらも良い作品で、力量のある作家さんである事は間違いないですし、『お庭番デイズ』はある種の風采・風格のある作品だと思うので、是非とも続編に取り組んで欲しいと思うところです。
さて、1作だけしかおすすめできないのであればお庭番デイズですけど、もっと読みたい人のためにどんどん挙げてみます。
レギュレーションは、10代の女性の学生が主人公の、超常要素なしの面白かった作品とします。
まずは『若おかみは小学生!』の原作でも知られる、大人気作家令丈ヒロ子作品から『かえたい二人』と『なりたい二人』の姉妹編。
『かえたい二人』は、転校を機に「普通」になりたいと思ってる穂木と、クラスでぶっちぎりで浮いている陽菜が、お互いの立場を守るために協力する事になり・・・という女子ふたりの紐帯を描いた話です。
『なりたい二人』は、本当はひと一倍おしゃれに興味があるけど自信が無くて背中を丸めて生きてきたちぇりが、ぽっちゃりした幼なじみのムギと一緒に学校の課題について調べることになり、そのなかで気持ちを整理し自分の夢がなんなのかを捉えていく・・・という話ですね。
出版順は『なりたい二人』の方が先なんですけど、まずキャッチーでエンタメ性の高い『かえたい二人』を読んでから、次に心の変化が良く書けててラストの味わいが深い『なりたい二人』に逆流するのもおすすめできると思います。
生まれたての子鹿みたいだったちぇりが、ムギのIKEMENムーブにさらされ続けた結果ついに捕食者としての片鱗を見せるの元気があってよろしいなあと思います。
続いて『かえたい二人』『なりたい二人』と同様にイラストレーターの結布が表紙絵・挿絵をつけている『トリコロールをさがして』。作者の戸森しるこは比較的書く手が速いほうの作家だと思うんですけど、書いてる作品がマジで全部面白いのですごいです。大作家か?
『トリコロールをさがして』は、2歳年上の幼なじみが最近になっておしゃれに目覚めてしまい、すっかりかまってもらえなくなってしまった事が不満な小学4年生を主人公に据えた物語。
中学年以上向けの本なので字がでっかいんですけど、必要な文章が必要な分量で、必要な物語が必要な頁数で描かれていて、全てが丁度良く出来てます。
唯一、挿絵の量だけは過剰なんですけど、それがまた「結布イラストをこんなに拝める!」となって良いです。
隠喩的な演出もバシバシ決まるし、物語の末尾において姿勢を良くして大股で未来へ進んでいく主人公の姿がなにより良いですね。
物語の終わりにあらわれる「姿勢の良さ」というと、思い出されるのが『よろこびの歌』です。
『羊と鋼の森』で本屋大賞受賞作家となった宮下奈都の音楽小説で、新設の私立校に集まった女子学生たちを描く連作短編で、それぞれに挫折を抱えながら徐々に前向きになっていく様は、冬の日だまりのようにじんわりと暖かいです。
次に挙げる2作品はともに学級内闘争を描いた作品です。
『さくらいろの季節』は、かつての親友が学級内政治を支配しているクラスで、地味な善人という立場でおとなしく生きてきた主人公が、転校したもうひとりの親友や孤高の転校生との関係の中で、自分はどう動くべきかすごい悩ましい、と言う話です。
作者はこのデビュー作1作しか出してないので、ぜひまたなんか書いて欲しいですね。
『王妃の帰還』は、公開裁判の末に頂点から転落したクラスのプリンセスを、成り行きで自分たちのグループに受け入れる事になって正直迷惑している4人組が、厄介払いのために人気回復大作戦を画策する、という話です。
『さくらいろの季節』は少女趣味、『王妃の帰還』はガールズ趣味とでも言うような読み味の違いがありますが、両作品ともに非常にドラマ性の高い盛り上がる作品です。『王妃の帰還』はとくにジェットコースター感が強いですね。
最後に、これもまたひとつの正統後継、第1回 氷室冴子青春文学賞 大賞受賞作『虹いろ図書館のへびおとこ』。
学校でいじめられた主人公が町の図書館に入り浸る話で、読んでて猛烈に小学生に戻って図書館通いをしたくなります。
抑制されたメイン部分から、一転してエピローグがダダ甘のヘテロだったりするところも好きですね。
さしあたりこんなところでしょうか。
有沢佳映と戸森しるこは少年主人公ものも含めて書いてる本全部が面白いので、もしあなたが読んでみて気に入ってお金と時間があるなら、どんどん読んでいくと良いと思います。
近日刊行作品だと、12月刊の戸森しるこ『すし屋のすてきな春原さん』と村上雅郁『キャンドル』、それにもちろん11/19の『大人だって読みたい!少女小説ガイド』が楽しみですね。