ラノベクラスタにも児童文学クラスタにもおすすめ!闇の魔法学校”スコロマンス”

YA児童文学とライトノベルの境界部分ってかなりあいまいなので、わたくしたまにYA児童文学をこのラノとか好きラノとかの人気投票で投票してまして(死票にはなるよ)、2020年には有沢佳映の『お庭番デイズ』を投票しましたし、来年になったら投票しようと思ってるのがスコロマンスです。

 

“スコロマンス”、もしくは「死のエデュケーション」シリーズは、『テメレア戦記』『ドラゴンの塔』などで知られるアメリカのファンタジー作家ナオミ・ノヴィクの手による小説で、第1巻『闇の魔法学校』(A Deadly Education)と第2巻『闇の覚醒』(The Last Graduate)の2冊が翻訳されています。

 

具体的にどんな話かと言うと、まずジャンルで言えばポスト「ハリー・ポッター」の学園ファンタジーです。本邦の作品だと『七つの魔剣が支配する』と同じジャンルの作品と言えますね。

また、悩めるティーンエイジャーの女性の一人称視点で物語が語られ、友情や恋も描かれるので、話の骨格は少女小説だと言えるでしょう。

ここまではオーソドックスな面白さの構造なんですけど、本作の特徴は舞台となる学校の設定と主人公のキャラクター性が両方ともめちゃくちゃ濃いことで、これにより異様な迫力を伴った作品世界が出現しています。

 

本作の舞台となるのは虚空に浮かぶ魔法学校“スコロマンス”です。

例えば先行作であるハリー・ポッターホグワーツにも、トロールやら大蛇やら大きな犬やら、学校内でエンカウントするモンスターが登場していましたが、スコロマンスではホグワーツの100倍はモンスターがポップします。

しかも教室はもちろん、寮の自室やシャワー室、学食のビュッフェの中にも当たり前のようにモンスターが潜んでおり、常に油断なく目を光らせ、クラスメイト同士で協力し、対抗措置を確保したうえで生活をしなければなりません。が、にもかかわらず、スコロマンスで4年間を過ごし卒業するまでに、実に3/4の生徒が命を落とします。

 

およそ教育機関としての責任を果たしていないように見えるスコロマンスですが、恐ろしいことにスコロマンス外で魔法使いの子どもが育った場合の生存率はそれ以下なために、この状況が許されています。

おそらく、澤村伊智の比嘉姉妹シリーズで、かつて大家族だった比嘉家の人々が次々に妖魔の手にかかり、物語開始時点で姉妹ふたりを残して全滅しているのと同様か、さらに悲惨なことが、世界中の魔法使いの家庭で起きているのだろうと理解しています。

スコロマンスは、この状況を憂慮した強力な魔法使いたちが、子供たちを守るための結界で守られた教育機関としてつくられました。しかし、世界中から集められた魔法使いの子どもの存在は魔物たちにとってあまりにも魅力的で、スコロマンスの結界の周囲に強大な魔物が押し寄せるという結果を招きました。現在のスコロマンスの学校施設は、徐々に壊れていく設備や増えていく結界の抜け穴を修理することもままならぬまま、だましだまし使い続けられています。

 

その他、世界観の特徴としては、ハリポタや呪術廻戦などと同様に、現代社会の裏の世界として魔法使いの社会が存在している点や、スコロマンスの教育システムがすべて自動化されていて教師をはじめとした大人が存在しない点などがありますね。大人が出てこないあたり、十五少年漂流記や蠅の王のような学生漂流ものの変種ととらえることもできる作品と言えそうです。

 

一方で、これもまた面白いのが主人公の造形です。

ヒロインのエル(ガラドリエル)は、協力し合わねば生き残れないスコロマンスにおいて、学校内のはぐれ者となっています。

エル嬢はニューヨークをはじめとした有力派閥の出身生徒に取り入り、卒業まで生き延びた上で外の世界でも引き立ててもらいたいという気持ちは大いにあるのですが、適性があり習得している魔術が大規模破壊魔術に極端に偏っているため、自分を売り込む機会が全く訪れず、常に怒りと僻みを抱え込んで自室でじたばたしています。

また、この過酷な世界で生きてきたものとして、エル嬢は生きていくには酷薄でなければならないという規範意識を持っているのですが、それでいて彼女の心の奥底には生来の善性と高貴さ、他者への共感性が眠っているため、自己矛盾で常にイライラとしています。

 

ほんとうに常にキレ散らかしてるんですよね、エル嬢。

でもスコロマンスの世界は本当に最悪なのでその怒りは七割がた正当です(残りの二割が照れ隠し、一割が誤解)。

スコロマンスの世界は、常にモンスターの脅威にさらされた余裕のない世界で、魔法使いたちは大都市ごとに共同体をつくって互いの身を守っていますが、有力な共同体とその他の共同体には大きな格差が存在し、また有力な共同体同士の緊張関係もあり、それら大人の世界の歪みがスコロマンスの生徒たちの中に再生産されています。

スコロマンスの生徒たちの大半はきっと、こんな生き方したくてしてるわけじゃないと思いながら、状況に迫られて、自分たちの醜さから目をそらして生きているんだと思いますが、そうした学生たちとエル嬢の生き方の対比、そして変化が、本作の見所になっていると思います。

 

エル嬢を見ていて連想したキャラクターとしては、ぼっちと言う点ではわたモテの黒木智子や僕ヤバの市川京太郎や俺ガイルの比企谷八幡、常に苛立っているという点では魔術士オーフェンオーフェンや勇者刑のザイロあたりがありますね。あと学パロになったら夕景イエスタデイみたいになるんかなあなどとも思いました。

 

 

ほんとうに面白いシリーズで、児童文学クラスタにもラノベクラスタにもおすすめです。

三部作構成の完結第3巻も原作は2022年中に出版されているため、いずれ3巻の日本語訳も出るものと思われます。2巻ラストの次巻へのヒキも鬼だったので、楽しみで仕方がないですね。