マスラダ編ニンジャスレイヤー、その面白さの特徴と第5シーズンの展望について

小寒の候、みなさんいかがお過ごしでしょうか。

昨年もいろいろな面白いものがありました。

自分としてはいちばん面白かったのは積読崩してて読んだフランシス・ハーディングの『カッコーの歌』(これはオールタイムベストじゃないか)なんですが、新作だとたとえば『かくて謀反の冬は去り』などが非常に良くて、続刊も楽しみです。

 

さて、では今年はどんな面白いものがあるのか。

さしあたってその第一弾として、1月中の連載開始が予告されているニンジャスレイヤー第四部AoM第5シーズンを楽しみにしています。

 

そもそも、ニンジャスレイヤーはX(旧Twitter)とnoteで主に連載を行っているサイバーパンク伝奇アクション小説で、2010年代におけるベストおもしろコンテンツと言って良かろうと思います。ジャンルとしては『血界戦線』とかと同じ箱に入る作品になるでしょうか。

で、2024年時点でも普通にまだ連載してるんですが、それなりに長くやってるので現在では主人公が代替わりしてるんですよね。

ニンジャ組織の抗争に巻き込まれて妻子を失ったサラリマン「フジキド・ケンジ」の長い長い復讐の物語は第三部でひとまずの完結を見ます。そこから作中時間で10年後を舞台に、主人公にマスラダ・カイという青年を据えて始まったのが第四部〈エイジ・オブ・マッポーカリプス〉です。

 

マスラダ編ニンジャスレイヤーはシーズン制をとっており、早いもんですでに第4シーズンまで連載が続いてるんですが、フジキド三部作の各部と比べると各シーズンは短いですし時系列シャッフルのような特殊な連載形態でもないので、後追いで読みはじめてもわりとすんなり追いつけるんじゃないかと思います。 

ではそのマスラダ編ニンジャスレイヤーはどんな話なのでしょうか?

 

ピザ・タキの3人組について

ニンジャスレイヤーって作品にはいろんな要素がありますが、ひとつの切り口として変身ヒーローものであると言えます。

とくに仮面ライダーで伝統的によくでてくる概念ですが、ヒーローの拠点になる個人商店ってありますよね。フジキドは単独行動をすることが多かったのですが、マスラダ編には日常の芝居と作戦会議の舞台となる拠点が登場します。

それがピザ屋兼情報屋の「ピザ・タキ」であり、その店主であるハーフ・ガイジンのハッカー「タキ」という男です。

タキは物語開始時点では2流のハッカーですが、もちまえの生き汚さが武器で、ストリートチルドレン時代につるんでいた姉貴分をハッキング中の事故で亡くして以来、ひとりでネオサイタマの下層社会を生き抜いてきました。タキは情報屋をやるにあたっての表稼業としてピザ屋を開いたのですが、これが「ピザ・タキ」です。

タキはひとりにしておくとしょうもない小悪党なのですが、物語が進むにつれて意外にも保護者をやらせると適性があることがわかってきます。タキとピザ・タキは、いつの間にかそこに出入りするやつらにとっての“ホーム”として機能するように変化していくんですよね。

 

そしてこのピザ・タキに勝手に住み着いた、機嫌の悪い黒猫みたいな兄ちゃん、それがマスラダ・カイです。

マスラダももともと孤児で、いろいろあってオリガミ・アーティストとして身を立てることを志すようになったのですが、マルノウチ・すごいタカビルで個展を開いた際に謎の超存在サツガイが降臨、個展を訪れていた幼馴染のアユミが命を落とすこととなりました。

この時自身も致命傷を負ったマスラダは、再び眠りから目覚めた大怨霊ナラク・ニンジャに憑依されて復活、ニンジャスレイヤーとしての戦いが始まる事となります。

強者の理不尽に断固とした態度で対峙するマスラダの戦いの旅と、憎悪に塗りつぶされていたマスラダの複雑なパーソナリティがだんだんと読者に理解されていく過程が、マスラダ編ニンジャスレイヤーのメインストーリーとなっています。

 

タキとマスラダと並ぶ、もうひとりのピザ・タキの主要メンバーが、自我をもつアンドロイド「コトブキ」です。

コトブキは所有者が頓死したために狭い家屋内に閉じ込められたまま、膨大な旧時代アクション映画コレクションを見て己の精神性を確立させました。戦闘中のマスラダが壁をぶち壊した際に外の世界に踏み出したコトブキは、ピザ・タキの従業員として暮らし始めます。

治安の悪いネオサイタマの世界観のなかで、困った人を捨て置かない義の心をもち、朗らかでおしゃれを愛するコトブキは、ピザ・タキの連中の外付けの良心として機能しています。

 

ピザ・タキに集まった、時にストレート、時に屈折した親愛の情で結ばれたこの3人が、セットになる事でこの物語の主人公となっています。

 

孤児と怪物

ピザ・タキは上述の通り、元孤児の連中が集まってやってる自営業者なんですが、あわせて押さえておきたいのが公権力が衰退しきっているという点です。

フジキド三部作の時代にも公権力はそんなに強いものではなかったんですが、それでもまがりなりにもネオサイタマ市長とネオサイタマ市警は存在し、影響力は限定的ですが日本国という国家もまだ存在していました。

しかしこれらはフジキド編第三部のすぐ後に完全に崩壊し、混乱期を経てマスラダ編の時期のネオサイタマは、「ヨロシサン・インターナショナル」「カタナ・オブ・リバプールをはじめとした大企業群と、ネオサイタマ市警の刑事たちが立ち上げた自警組織「キモン」、かつてのネオサイタマ最大の犯罪組織の系譜を継ぐ「ソウカイヤ(2代目)」などが、共同で統治をおこなっています。

親がおらず国家もなく、非力な個人が酷薄な現実社会に直接対峙し、そこに住まう怪物たちと時に戦い時に交渉せねばならないという点で、マスラダ編は近作で言うと『天気の子』『ちいかわ』と同じ切り口で語る事の出来る作品ではないかと思っています。

 

ピザ・タキの連中が対峙しなければならない主要な相手、つまり各シーズンの敵についても触れておきましょう。

まず複数シーズンにわたって登場するマスラダの仇敵が、世界の混沌を加速させる謎の超常存在サツガイです。

ついで、第1シーズンの主要な敵となったのが、サツガイに力を授けられたニンジャ達の交流サークル「サンズ・オブ・ケオス(SoC)」に所属するニンジャ達で、彼らは世界を股にかけて活躍する強い個人でした。

第2シーズンの主要な敵になるのは、アラスカのシトカに本拠地を置くマフィア「過冬」です。過冬のボスであるシンウインターは、支配地域に己のルールを押し付ける領域君主でした。

国家なきこの時期の世界には、由来はさまざまですが領域君主的な存在となった軍閥は過冬のほかにも多数あります。

力ある個人と領域君主はともにこの時代の主役と言える存在だと言えますが、SoCと過冬は力あるが故に傲慢で良心を持たない、邪悪な反面教師として、ピザ・タキの連中の前にあらわれることになります。

 

さて、つづく第3シーズンと第4シーズンの主要な敵となるのが、「リアルニンジャ」と呼ばれる、神代や歴史の闇の彼方から甦った人知を超えた怪物たちです。

第3シーズンの主要な敵となるのが、旧カナダ西部を実効支配する帝国「ネザーキョウ」の支配者である“タイクーン”アケチ・ニンジャで、こいつは戦国時代の明智光秀本人です。

第4シーズンの主要な敵となるのが、長き眠りから目覚め、現代でもすでに多くの支配領域や配下を抱える一大勢力を築いている、「セト・ニンジャ」をはじめとした神代の恐るべきニンジャキングたちの同盟「ダーク・カラテ・エンパイア(DKE)」です。

 

第1・第2シーズンでは、直接マスラダに危害を加えたわけではないSoCや過冬のニンジャたちが、サツガイを探す迷惑訪問者マスラダの訪問を受け、流れで悪事を暴かれて殺されていきました。

これが第3シーズンでは北米を戦国日本のノリで支配しようとする迷惑存在・明智光秀とマスラダとの、迷惑と迷惑の頂上決戦となります。

さらに第4シーズンでは、ひとまず復讐の旅を終えて新たな人生をはじめようとしたマスラダを、DKEが自分たちの盟主を決めるための闇のゲームの討伐目標に据えた為に、今度はマスラダが迷惑をかけられる側になるという逆転が発生しています。

 

交差する世界観の横軸と縦軸

マスラダ編ニンジャスレイヤーの大きな特徴として、舞台がネオサイタマとキョートにほぼ限定されていたフジキド三部作と違い、ネオサイタマを本拠地としつつ世界の各地域をピザ・タキの連中が訪れるワールドツアー性があります。

そもそもネオサイタマは、西暦2000年のY2Kカタストロフと海水準の上昇、その後に続いた戦争、国家の衰退、新資源の発見などによって崩壊・復興・異常発展を遂げたもうひとつの未来の東京の姿です。

この「ネオサイタマ化」が、マスラダ編で紹介される世界の各地でおきているわけです。

例えば欧州ではバチカンと電子貨幣カルトが結託した「論理聖教会」が影響力を強め、北米ではUSAに代わる統治者である企業連合UCA(ユナイテッド・コープス・オブ・アメリカ)がアケチ・ニンジャの軍勢と戦争を続けており、東南アジアでは神代の魔術師シャン・ロアがジョグジャカルタに首都を置く海洋帝国を築いています。

こうした世界観の横軸の広がりは、マスラダ編ニンジャスレイヤーの魅力のひとつですね。

 

また、ニンジャスレイヤーはサイバーパンクSFであるとともに闇の歴史を描く伝奇ロマンでもあり、「何がどうなってこんな世界になってんの?」という世界観の縦軸を意外なほど大事にしています。

第3・第4シーズンのメイン敵であったリアルニンジャは、かつて神や悪魔と畏れられた存在、あるいは歴史上の偉人そのひとであり、彼らが本格的に物語に登場したことが、マスラダ編ニンジャスレイヤーにおける世界観の縦軸の語りをより豊かなものにしています。

またそれと同時に、ニンジャスレイヤーと言うシリーズの大きな魅力である現代文化の風刺・パロディもまた、はるか過去より現れた存在であるリアルニンジャとの対比により、切れ味を増しています。

神話上の存在や歴史上の偉人がインターネットを華麗に使いこなしたり、逆に惰弱きわまりないと断じて取り締まったりするだけで、常にだいぶ高水準な面白さが担保されるんですよね。

 

そうした世界観の横軸と縦軸の交差するものとして、第3シーズンの明智光秀との戦いの終盤は、マスラダ編でも白眉と言える面白さであり、これによってマスラダ編はフジキド三部作に並ぶ格を持つに至ったと言えると、個人的に思っています。

 

そして第5シーズン

さて、今月(2024年1月)より連載開始が予告されているマスラダ編第5シーズンは、ワールドツアーや神話的ニンジャとの戦いはひと段落として、あらためてネオサイタマ社会にうごめく様々な勢力の戦いを、オープンワールド/シティアドベンチャー/サスペンスホラー的に描くものとなるそうです。

詳細な架空社会を正攻法で描写するためには、血の通ったキャラクターたちがたくさん必要であり、そのために第5シーズンと言うタイミングを待ってこうした話がスタートするのではないかと思います。

 

第5シーズンの敵キャラとしては、邪悪企業「アダナス・コーポレーション」や、武闘派ヤクザ「ゾウラン・ダイ・カイ」の登場が予告されており、治安維持に責任のあるその他の大企業や2代目ソウカイヤ、そしてピザ・タキの連中との抗争が予想されます。

その他、現代文明を軽んずる平安貴族リアルニンジャ「シナリイ」が第4シーズンから続投で登場することや、マスラダが亡き幼馴染アユミの運営していた困りごと相談秘密サイトを引き継いだこと等も気になるトピックです。また、フジキド三部作の人気キャラも複数名が、人物によってはすっかり立場を変えた姿でネオサイタマを再訪するようです。

 

ひろがった視野を引き戻してあらためて描かれるネオサイタマと、そこにいかなる邪悪が潜みどのようなエピソードが語られるのか、いまから非常に楽しみにしています。

(終わり)

アイカツ無印×みんなのうた メモ

相互させて頂いてるKaoluさんが以前こんなことを言っておられまして。

 

それから半年、たまにこの件について考えていたので以下にメモしておきます。

 

星宮:北風小僧の寒太郎 わりと迷いなくこれだなと思いました。かんたろー!という合いの手が聞きたい。

霧矢:手紙 拝啓十五の君へ これもすぐ決まりました。手紙と言えばですしね。

紫吹:ドレミの歌 「ドはドーナッツのド」からじゃなくて、「さあ おけいこを はじめましょう」からはじまるバージョンがあるんですけど、紫吹蘭と言えばいちご世代の鬼教官なのでそちらでお願いします。

有栖川:しっぽのきもち 愛の歌なので有栖川おとめ向き。ふわふわふりりん。

藤堂:サラマンドラ 藤堂ユリカはサラマンドラだと思う。

北大路:花 滝廉太郎のやつね。暮部拓哉のHANAもあってると思うけど。

一ノ瀬:火星のサーカス団 どんな曲だっけ?と思って聞いてみたら、ああこれかピッタリっすねと思いました。

神谷:忍者ネギ蔵 なんも思いつかないので「忍者 みんなのうた」で検索した。ラテンのリズムのかっこいい曲なので神谷しおんには向いてると思います。

三ノ輪:さとうきび畑 強いて前向きになったりしない純粋な悼みと鎮魂の歌が歌えるのってやっぱ三ノ輪だよなと思うので。

音城姉:切手のない贈り物 歌を届けたいというのがモチベーションになってるやつと言えば音城姉なので。

冴草:コンピューターおばあちゃん これはまあ、ですよね~といった感じ。

風沢:メトロポリタン美術館 意外と言われないと思いつかない組合わせだったかな。でもあってると思います。

姫里:この広い野原いっぱい 野原のイメージと、ひとつのこらずあげるっていうインフレした感じが姫里マリア向きじゃないかな。

音城妹:あなたの声 最初は気球に乗ってどこまでもがいいかなと思ってたんだけど、あれみんなのうたじゃないんですね。/あなたの声であれば、歌詞の内容的に音城姉へのアンサーみたいになるのでよいかなと思いました。

神崎:月のワルツ 月の歌ってみんなのうたにめっちゃたくさんあるんですけど、中でも有名かつ神崎美月にあいそうなのと言うとこれ。

夏樹:虹色ラブレター 美月さんとおなじ諌山実生の歌から。素直でフットワーク軽い善性が夏樹みくるに合ってるんじゃないでしょうか。

大空:勇気ひとつを共にして なるほど鉄の勇気を受け継いで明日に向かい飛び立ちそうなタイプ。

氷上:まっくら森のうた 藤堂→サラマンダー、神崎→月のワルツ、ときたら氷上→まっくら森ですよ。

新条:おはようクレヨン パッと思いつきましたけど、105話のGood morning my dreamからの連想ですかね。

紅林:トレロ・カモミロ ベタも良いところですが紅林はベタを受け止められる女。

天羽:アップル・パップル・プリンセス 谷山浩子シリーズから選んでも良かったけど今回はこっちで。

黒沢:ピースフル! ダンスって言うとこの辺かしら。

藤原:紅葉 北大路さくらが春なら藤原みやびは秋よ。

栗栖:ありがとう・さようなら 栗栖は友達を巻き込んでいくプロデューサー気質なやつなので卒業ソングが合う。

大地:ドナドナ 農家なので…。

白樺:夢待列車 なんかこの曲lucky train!じゃない?って思ったので。

堂島:テトペッテンソン おしりかじり虫はあえて避けてのテトペッテンソン

マスカレード:赤鬼と青鬼のタンゴ あのふたりで聞きたいのと言えばでパッと思いつきました。

 

 

その他あれがあいつらで聞きたいとかあります?そうっすね…

ソレイユ:だんご三兄弟 これはまあ順当。

星宮×大空:黒ネコのタンゴ&アスタルエゴ 実は黒ネコのタンゴはみんなのうたではないようだけどこの際まあ良いだろ。どっちかというと星宮が黒ネコのタンゴ、大空がアスタルエゴ、という感じかな。

ぽわプリ:花は咲く これも実はみんなのうたではない。スタライクイーン勢には仕事をさせたいですね。

北大路×姫里:天地の声 合ってるけど、へたにひとりで歌わせるとやばい感じが出るのでデュエットで。

風沢×姫里:ラジャ・マハラジャー これはもう絶対見たい。

ラノベクラスタにも児童文学クラスタにもおすすめ!闇の魔法学校”スコロマンス”

YA児童文学とライトノベルの境界部分ってかなりあいまいなので、わたくしたまにYA児童文学をこのラノとか好きラノとかの人気投票で投票してまして(死票にはなるよ)、2020年には有沢佳映の『お庭番デイズ』を投票しましたし、来年になったら投票しようと思ってるのがスコロマンスです。

 

“スコロマンス”、もしくは「死のエデュケーション」シリーズは、『テメレア戦記』『ドラゴンの塔』などで知られるアメリカのファンタジー作家ナオミ・ノヴィクの手による小説で、第1巻『闇の魔法学校』(A Deadly Education)と第2巻『闇の覚醒』(The Last Graduate)の2冊が翻訳されています。

 

具体的にどんな話かと言うと、まずジャンルで言えばポスト「ハリー・ポッター」の学園ファンタジーです。本邦の作品だと『七つの魔剣が支配する』と同じジャンルの作品と言えますね。

また、悩めるティーンエイジャーの女性の一人称視点で物語が語られ、友情や恋も描かれるので、話の骨格は少女小説だと言えるでしょう。

ここまではオーソドックスな面白さの構造なんですけど、本作の特徴は舞台となる学校の設定と主人公のキャラクター性が両方ともめちゃくちゃ濃いことで、これにより異様な迫力を伴った作品世界が出現しています。

 

本作の舞台となるのは虚空に浮かぶ魔法学校“スコロマンス”です。

例えば先行作であるハリー・ポッターホグワーツにも、トロールやら大蛇やら大きな犬やら、学校内でエンカウントするモンスターが登場していましたが、スコロマンスではホグワーツの100倍はモンスターがポップします。

しかも教室はもちろん、寮の自室やシャワー室、学食のビュッフェの中にも当たり前のようにモンスターが潜んでおり、常に油断なく目を光らせ、クラスメイト同士で協力し、対抗措置を確保したうえで生活をしなければなりません。が、にもかかわらず、スコロマンスで4年間を過ごし卒業するまでに、実に3/4の生徒が命を落とします。

 

およそ教育機関としての責任を果たしていないように見えるスコロマンスですが、恐ろしいことにスコロマンス外で魔法使いの子どもが育った場合の生存率はそれ以下なために、この状況が許されています。

おそらく、澤村伊智の比嘉姉妹シリーズで、かつて大家族だった比嘉家の人々が次々に妖魔の手にかかり、物語開始時点で姉妹ふたりを残して全滅しているのと同様か、さらに悲惨なことが、世界中の魔法使いの家庭で起きているのだろうと理解しています。

スコロマンスは、この状況を憂慮した強力な魔法使いたちが、子供たちを守るための結界で守られた教育機関としてつくられました。しかし、世界中から集められた魔法使いの子どもの存在は魔物たちにとってあまりにも魅力的で、スコロマンスの結界の周囲に強大な魔物が押し寄せるという結果を招きました。現在のスコロマンスの学校施設は、徐々に壊れていく設備や増えていく結界の抜け穴を修理することもままならぬまま、だましだまし使い続けられています。

 

その他、世界観の特徴としては、ハリポタや呪術廻戦などと同様に、現代社会の裏の世界として魔法使いの社会が存在している点や、スコロマンスの教育システムがすべて自動化されていて教師をはじめとした大人が存在しない点などがありますね。大人が出てこないあたり、十五少年漂流記や蠅の王のような学生漂流ものの変種ととらえることもできる作品と言えそうです。

 

一方で、これもまた面白いのが主人公の造形です。

ヒロインのエル(ガラドリエル)は、協力し合わねば生き残れないスコロマンスにおいて、学校内のはぐれ者となっています。

エル嬢はニューヨークをはじめとした有力派閥の出身生徒に取り入り、卒業まで生き延びた上で外の世界でも引き立ててもらいたいという気持ちは大いにあるのですが、適性があり習得している魔術が大規模破壊魔術に極端に偏っているため、自分を売り込む機会が全く訪れず、常に怒りと僻みを抱え込んで自室でじたばたしています。

また、この過酷な世界で生きてきたものとして、エル嬢は生きていくには酷薄でなければならないという規範意識を持っているのですが、それでいて彼女の心の奥底には生来の善性と高貴さ、他者への共感性が眠っているため、自己矛盾で常にイライラとしています。

 

ほんとうに常にキレ散らかしてるんですよね、エル嬢。

でもスコロマンスの世界は本当に最悪なのでその怒りは七割がた正当です(残りの二割が照れ隠し、一割が誤解)。

スコロマンスの世界は、常にモンスターの脅威にさらされた余裕のない世界で、魔法使いたちは大都市ごとに共同体をつくって互いの身を守っていますが、有力な共同体とその他の共同体には大きな格差が存在し、また有力な共同体同士の緊張関係もあり、それら大人の世界の歪みがスコロマンスの生徒たちの中に再生産されています。

スコロマンスの生徒たちの大半はきっと、こんな生き方したくてしてるわけじゃないと思いながら、状況に迫られて、自分たちの醜さから目をそらして生きているんだと思いますが、そうした学生たちとエル嬢の生き方の対比、そして変化が、本作の見所になっていると思います。

 

エル嬢を見ていて連想したキャラクターとしては、ぼっちと言う点ではわたモテの黒木智子や僕ヤバの市川京太郎や俺ガイルの比企谷八幡、常に苛立っているという点では魔術士オーフェンオーフェンや勇者刑のザイロあたりがありますね。あと学パロになったら夕景イエスタデイみたいになるんかなあなどとも思いました。

 

 

ほんとうに面白いシリーズで、児童文学クラスタにもラノベクラスタにもおすすめです。

三部作構成の完結第3巻も原作は2022年中に出版されているため、いずれ3巻の日本語訳も出るものと思われます。2巻ラストの次巻へのヒキも鬼だったので、楽しみで仕方がないですね。

失われた傑作『ブラックロッド』、復活

今年の7月に最終巻が出たヒロアカの外伝『ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミアILLEGALS-』の原作担当をしている古橋秀之(敬称略)は本来は小説家でして、近年だとSFショートショート集『百万光年のちょっと先』を2019年に出版したほか、主にライトノベルレーベルでたくさんのすぐれた作品を書いています。

 

古橋秀之は、作品の質の高さ、その割に売り上げには繋がっていなさそうな不遇さ、同門*1秋山瑞人(『E.G.コンバット』『猫の地球儀』『イリヤの空、UFOの夏』など)とのセット扱いなどから、00年代にラノベが好きだった者にとっては深く記憶に刻まれた作家なんですが、その古橋秀之の代表作とされることが多いのが、『ブラックロッド』シリーズ三部作(ケイオスヘキサ三部作とも)です。

 

ブラックロッドはまさに伝説のラノベと呼ぶにふさわしい作品で、どの辺が伝説かと言うと、もちろん面白さ・評価の高さ・語れるポイントの多さ・後進への影響みたいな点でも伝説的なんですけど、そもそも入手難易度が高いんですよね。

ラノベがすぐ絶版になるのはみなさんご存じかと思いますが、ブラックロッドはそこそこ古い作品なこともあって電子書籍化しておらず、そのうえ3作目のブライトライツ・ホーリーランドAmazonの中古価格で5,000円を超えています(2022/12/11現在)。そりゃあ買おうと思って買えない値段ではないですし、図書館で取り寄せて読む方法もありますが、やはり未読の人がわざわざ読むにはハードルが高い。

 

ブラックロッドはマジで面白いので、名前を耳にすることはあれど実際に目にすることはないツチノコみたいな作品になっている現状は大変遺憾に思っていたのですが、ようやく来年2023年2月5月、ブラックロッドが復刊されることになりました(復刊の話自体は2021年からありましたけど、立ち消えになることもありうるなと、その時点では完全には信用してませんでした)。

下記が作者による進捗状況公開サイトです。

ブラックロッド2023|古橋秀之|note

どうやら3部作を合本版として立派な装丁のハードカバー1冊にまとめるようですね。

電書化についても、物理書籍の刊行から数ヶ月の間を開けてからにはなるようですが、行う方向で詳細検討中のようです。

 

さて、では具体的にブラックロッドがどんな作品なのかと言いますと、まずジャンルとしては、しばしば「オカルトパンク」と説明される作品です。

異常発達した魔術が文明の礎になった異形の近未来における、積層魔術都市「ケイオス・ヘキサ」を舞台とした、アクションと都市描写をかっこいい造語が彩る作品で、他作品を例に出すと『血界戦線』とか『ニンジャスレイヤー』みたいなやつです。

 

また、ラノベ史上の位置づけで言うと、電撃小説大賞(当時は電撃ゲーム小説大賞)の第2回大賞受賞作品ですね。

現在ラノベレーベルの最大手として君臨している電撃文庫ですが、レーベル初期に持っていた主なアドバンテージがふたつあって、ひとつはちょうどデザインワークにパソコンが本格導入された時期だったことによる垢ぬけた装丁、もうひとつがレーベルの新人賞である電撃小説大賞の異常な打率の高さです。

第2回大賞受賞作であるブラックロッドは、電撃文庫のブランド力の礎を築いた作品であり、またその後の『86-エイティシックス―』や『錆食いビスコ』のような電撃文庫の設定濃い目のSF活劇路線の起点と言えるでしょう。

 

ブラックロッドは非常に個性豊かな作品ですけど、とはいえコンテンツを広く見渡したり、あるいはオカルトとサイバーパンクを要素ごとに分けて考えれば、『血界戦線』『ニンジャスレイヤー』『斬魔大聖デモンベイン』といった後発作、あるいは『ニューロマンサー』『魔界都市〈新宿〉』『帝都物語』『仙術超攻殻ORION』『リュカオーン』といった先行作が思いつきます。

そうした同系統の作品と比較した時のブラックロッドの魅力って何かなと考えてみると、思いますに、三部作なところですね。

1作ですべてが完結する単巻の作品でなく、大きなドラマの存在する長編作品でもなく、それぞれにテイストの異なる三つの作品が存在して、それぞれの方向から作品世界に生きる人々の姿を照らし出しているところに、このシリーズの良さがあります。

ということで、復刊をひかえているので軽くですが、三部作それぞれの特徴を見てみましょう。

 

ブラックロッド』は、魔都ケイオス・ヘキサで暗躍する魔人ゼン・ランドーを、名前と感情を封印された公安局の魔導特捜官“ブラックロッド”と、私立探偵ビリー・ロンが追う、と言う犯罪捜査ものです。

猥雑な都市描写のケレンに目が行きがちですが、練りあげられたプロットやガジェットの活かし方の巧みさに真の価値があるというか、それらはすべてイデアを使う時の練りこみがすごいという同じ美点の表出の仕方が違うだけ、という感があります。

 

ブラッドジャケット』は、大規模な吸血鬼禍がはじまらんとしているケイオス・ヘキサの下層社会を舞台とした墜落系ボーイミーツガールです。

若者に向けた暗黒青春小説としての作品の雰囲気づくりと、語彙選択は、前作から更なる洗練を見せています。

それでいてメインヴィラン超弩級聖人”ハックルボーン神父のあまりのパンチの強さも大きな魅力ですね。

 

ブライトライツ・ホーリーランド』は、都市の終わりを目前にしたケイオス・ヘキサ最後の日々を、最悪のトリックスター存在 “嗤う悪霊”G・G・スレイマンを軸に描く群像劇です。

冒頭の、嵐の魔神〈百手巨人〉vs機甲折伏隊の切り札・重機動如来〈毘盧遮那〉の決戦を皮切りにパワーワードは三部作最大量となっています。

しかし、本作の最大の見どころは、そうしたパワーワードを支え、基本は端的で過不足なく、しかしここぞで詩情をみせる文章力ではないでしょうか。

なお、復刊に際して「ブラインドフォーチュン・ビスケット」と改題されるとのことです。

 

 

どんなラノベもみなジャンルの生んだ成果であり、おいそれと失われてはならないものですが、ブラックロッドはスーパー傑作なのでとりわけ強くそう思います。

アクセス不可領域として失われていたブラックロッドの達成が、今回の復刊で再び触れられるようになることは本当に喜ばしいと思いますし、そもそもめちゃくちゃ面白いので、2月5月になったらぜひみんな買って読んで話題にしてみてください。

 

 

(それはそうと『タツモリ家の食卓』も『ブラックロッド』と同等に好きなので、ブラックロッド復刊の勢いでこちらも復刊・電書化して、バルシシア・ギルガガガントス15‐03Eが大人気になり、シリーズの刊行が再開して4巻が出て完結もして、ついでに劇場アニメ化もすればいいのにと思います。みんなバルシシア殿下を知るんだ。 )

 

*1:法政大学 金原ゼミ

「クララ白書とかマリみてみたいなやつないの?」「最近だとお庭番デイズかな」他

相変わらずニンジャスレイヤーばっかり読んでる生活を送っているのですが、甘いものばっかり食べてると今度は塩っ気が欲しくなる理屈で、平行して少女小説とかが読みたくなるわけです。

 

少女小説といってもいろいろあるわけですけど、とりわけ狭義の少女小説というか、 氷室冴子クララ白書』とか今野緒雪マリア様がみてる』みたいなやつですね、そういうのって少女小説レーベル内だと意外なほど見つからないので、その周辺も広く探していく事になります。

クララ白書 (集英社文庫―コバルトシリーズ 52C)

クララ白書 (集英社文庫―コバルトシリーズ 52C)

  • 作者:氷室 冴子
  • 発売日: 1980/04/10
  • メディア: 文庫
 
マリア様がみてる1 (集英社コバルト文庫)

マリア様がみてる1 (集英社コバルト文庫)

 

 

 

さて、ちょっと前までだと「クララ白書みたいなやつない?」と言われたら「ユーフォの原作読もうぜ」って言ってたと思いますし、その前だと文化部棟青春コメディ『マイナークラブハウスへようこそ!』を挙げてたと思います。

 

 

じゃあ今は?となると、今年どんぴしゃの作品が出版されました。

有沢佳映の『お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記』です。 

お庭番デイズ  逢沢学園女子寮日記 上

お庭番デイズ  逢沢学園女子寮日記 上

 
お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記 下

お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記 下

  • 作者:有沢 佳映
  • 発売日: 2020/07/16
  • メディア: 単行本
 

逢沢学園女子寮では「ピープル・ヘルプ・ザ・ピープル」を合い言葉に掲げて、学校内での互助を寮の文化として継承しているのですが、それにあたっての情報収集担当者をとくに「お庭番」と称していました。

中学1年生の戸田明日海(アス)は、ルームメイトの2人とともにお庭番を拝命する事となり、学校のトラブル周辺をうろうろしては役にたったり、たたなかったりする事になります。

寮を舞台に、先輩から変なミッションを押しつけられ、ルームメイトとともに奔走する様はまさにクララ白書マリみての正統後継だと言えますね。

また、その他の特徴としてはたいへんな登場人物の多さがあります。

巻頭に寮生50人を含む登場人物紹介リストが配置され、その後はたいした説明もなく物語の中に脇役・端役として顔を出してくるので、読んでる間は巻頭の登場人物リストを首っ引きし続けることになります。

でもそのぶんだけ、徐々に名前とキャラが一致してくるにつれて物語から受け取れる面白さが上昇していきますから、ただでさえ品質の高いエピソードである第4章(下巻後半部分)は相乗効果でべらぼうに面白いです。

また、中1の主人公から仰ぎ見る先輩達に、たまさかに年齢相応の子供っぽさが垣間見えるところも味わいが深いです。

 

有沢佳映はどっちかというと寡作な作家ですけど、他に出版されている、それぞれの事情で修学旅行に行けなかった居残り組のささやかな冒険『アナザー修学旅行』と、極めて高度なリアル小学生描写が見ものな問題児アベンジャーズ『かさねちゃんにきいてみな』はどちらも良い作品で、力量のある作家さんである事は間違いないですし、『お庭番デイズ』はある種の風采・風格のある作品だと思うので、是非とも続編に取り組んで欲しいと思うところです。

 

 

さて、1作だけしかおすすめできないのであればお庭番デイズですけど、もっと読みたい人のためにどんどん挙げてみます。

レギュレーションは、10代の女性の学生が主人公の、超常要素なしの面白かった作品とします。

 

  

 まずは『若おかみは小学生!』の原作でも知られる、大人気作家令丈ヒロ子作品から『かえたい二人』と『なりたい二人』の姉妹編。

かえたい二人

かえたい二人

 
なりたい二人

なりたい二人

  • 発売日: 2014/05/23
  • メディア: 単行本
 

『かえたい二人』は、転校を機に「普通」になりたいと思ってる穂木と、クラスでぶっちぎりで浮いている陽菜が、お互いの立場を守るために協力する事になり・・・という女子ふたりの紐帯を描いた話です。

『なりたい二人』は、本当はひと一倍おしゃれに興味があるけど自信が無くて背中を丸めて生きてきたちぇりが、ぽっちゃりした幼なじみのムギと一緒に学校の課題について調べることになり、そのなかで気持ちを整理し自分の夢がなんなのかを捉えていく・・・という話ですね。

出版順は『なりたい二人』の方が先なんですけど、まずキャッチーでエンタメ性の高い『かえたい二人』を読んでから、次に心の変化が良く書けててラストの味わいが深い『なりたい二人』に逆流するのもおすすめできると思います。

生まれたての子鹿みたいだったちぇりが、ムギのIKEMENムーブにさらされ続けた結果ついに捕食者としての片鱗を見せるの元気があってよろしいなあと思います。

 

  

続いて『かえたい二人』『なりたい二人』と同様にイラストレーターの結布が表紙絵・挿絵をつけている『トリコロールをさがして』。作者の戸森しるこは比較的書く手が速いほうの作家だと思うんですけど、書いてる作品がマジで全部面白いのですごいです。大作家か?

トリコロールをさがして (ポプラ物語館 80)

トリコロールをさがして (ポプラ物語館 80)

 

トリコロールをさがして』は、2歳年上の幼なじみが最近になっておしゃれに目覚めてしまい、すっかりかまってもらえなくなってしまった事が不満な小学4年生を主人公に据えた物語。

中学年以上向けの本なので字がでっかいんですけど、必要な文章が必要な分量で、必要な物語が必要な頁数で描かれていて、全てが丁度良く出来てます。

唯一、挿絵の量だけは過剰なんですけど、それがまた「結布イラストをこんなに拝める!」となって良いです。

隠喩的な演出もバシバシ決まるし、物語の末尾において姿勢を良くして大股で未来へ進んでいく主人公の姿がなにより良いですね。

  

物語の終わりにあらわれる「姿勢の良さ」というと、思い出されるのが『よろこびの歌』です。

よろこびの歌 (実業之日本社文庫)

よろこびの歌 (実業之日本社文庫)

  • 作者:宮下 奈都
  • 発売日: 2012/10/05
  • メディア: 文庫
 

 『羊と鋼の森』で本屋大賞受賞作家となった宮下奈都の音楽小説で、新設の私立校に集まった女子学生たちを描く連作短編で、それぞれに挫折を抱えながら徐々に前向きになっていく様は、冬の日だまりのようにじんわりと暖かいです。

 

   

次に挙げる2作品はともに学級内闘争を描いた作品です。 

さくらいろの季節 (teens' best selections)

さくらいろの季節 (teens' best selections)

  • 作者:蒼沼 洋人
  • 発売日: 2015/03/06
  • メディア: 単行本
 

  『さくらいろの季節』は、かつての親友が学級内政治を支配しているクラスで、地味な善人という立場でおとなしく生きてきた主人公が、転校したもうひとりの親友や孤高の転校生との関係の中で、自分はどう動くべきかすごい悩ましい、と言う話です。

作者はこのデビュー作1作しか出してないので、ぜひまたなんか書いて欲しいですね。

王妃の帰還 (実業之日本社文庫)

王妃の帰還 (実業之日本社文庫)

  • 作者:柚木 麻子
  • 発売日: 2015/04/04
  • メディア: 文庫
 

 『王妃の帰還』は、公開裁判の末に頂点から転落したクラスのプリンセスを、成り行きで自分たちのグループに受け入れる事になって正直迷惑している4人組が、厄介払いのために人気回復大作戦を画策する、という話です。 

 

『さくらいろの季節』は少女趣味、『王妃の帰還』はガールズ趣味とでも言うような読み味の違いがありますが、両作品ともに非常にドラマ性の高い盛り上がる作品です。『王妃の帰還』はとくにジェットコースター感が強いですね。

 

 

最後に、これもまたひとつの正統後継、第1回 氷室冴子青春文学賞 大賞受賞作『虹いろ図書館のへびおとこ』。

虹いろ図書館のへびおとこ (5分シリーズ+)

虹いろ図書館のへびおとこ (5分シリーズ+)

 

学校でいじめられた主人公が町の図書館に入り浸る話で、読んでて猛烈に小学生に戻って図書館通いをしたくなります。 

 抑制されたメイン部分から、一転してエピローグがダダ甘のヘテロだったりするところも好きですね。

 

 

 さしあたりこんなところでしょうか。

有沢佳映と戸森しるこは少年主人公ものも含めて書いてる本全部が面白いので、もしあなたが読んでみて気に入ってお金と時間があるなら、どんどん読んでいくと良いと思います。

 

近日刊行作品だと、12月刊の戸森しるこ『すし屋のすてきな春原さん』と村上雅郁『キャンドル』、それにもちろん11/19の『大人だって読みたい!少女小説ガイド』が楽しみですね。

大人だって読みたい!少女小説ガイド

大人だって読みたい!少女小説ガイド

 

ガンダムビルドダイバーズRe:RISEについて/良作における最上

本日最終回が公開となる『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』がめちゃくちゃ面白いので、見ていない人のためにどんな作品なのかここに紹介しておきます。

 

youtu.be

 

概要と舞台

ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』(以下リライズ)はガンダムビルドシリーズの4作目にあたります。

 

ガンダムビルドシリーズでは、1作目・2作目が描いたガンプラバトルという枠組みに、作品世界を一新した3作目ではそこにオンラインRPGと言う要素が追加されました。

その3作目の同一世界の2年後を描いた本作は、更に「ゲームの世界が本物の異世界と繋がってしまった」という導入による異世界転移もの という要素を加えています。

 

異世界転移ものと言う類型は、web小説界隈とそこからのメディアミックスによって、ここ数年にわたって流行が続いているジャンルです。

一方で異世界に転移して巨大ロボに乗るアニメというのは、聖戦士ダンバイン魔神英雄伝ワタルの系譜に連なるものであり、リライズは流行と由緒との二つの文脈に支えられて存在している作品と言えるでしょう。

 

紛い物たちの再起と隔絶を超える祈り

リライズという作品の物語を突き動かしているのは、なんらかの不本意な状況にある人物たちの再起の物語です。

これはもちろん主人公ヒロトもそうで、これまでのビルドシリーズの主人公が明朗で挑戦心あふれたいかにもな少年向けエンタメの主人公像を踏襲していたのに対して、ヒロトは心の傷を抱えてひとり旅を続けてきたダウナーな人物です。

また、ヒロトを含めた4人の仲間たちは、成り行きから前作の主人公チームと同じビルドダイバーズというチーム名を名乗る事となります。これがまた、彼らがヒーローたり得ない紛い物の寄せ集めであるという事を強調してきます。

そして、紛い物のヒーローが本物のヒーローに、バラバラだった4人がひとつのチームになっていくのと前後しながら、作り物だと思い込んできた異世界が本物であった事があきらかになり、おもちゃのガンプラが本物の戦闘を行い、さまざまな人物がそれぞれの再起を行います。

 

一方で、リライズという作品の世界を彩っているのは、隔絶を超える出会いや祈りです。

リライズの作中世界の面白いところは現実世界・ゲーム世界・異世界という3つの世界の存在です。そして、隔絶を超える出会いや祈りがもつロマンチックさが、本作では繰り返し繰り返し描かれます。

この隔絶は、ゲームプレイヤーであるビルドダイバーズと異世界の民フレディやマイヤといった世界間の隔絶、あるいはエルドラ地表と月面の敵本拠地、現実世界に戻ると互いにそこそこ遠方に住んでいるビルドダイバーズのメンバー達や、ヒロトの幼なじみで弓道部員のヒナタが的にめがけ放つ矢、漁師の息子カザミと船上の父といった遙かな距離としてあらわれます。

また、ヒロトの抱え込んだ事情に踏み込みきれないヒナタや、脚本家と翻訳家としてそれぞれの仕事を抱えるヒロトの両親など、物理的な距離は近いはずの者同士であっても、そこには隔絶の存在と、それを超えていくものがあること描かれています。

 

そして孤独な旅を終えて再起し、「誰かのために頑張れる」者になれたヒロトのもとで作品の縦軸と横軸が交差し、3つの世界で出会ったすべての人の思いや願いがつながっていくことになるのです。 

 

良作における最上

さて、twitter上などで観測できるリライズの感想からは、本作が2期(15話以降)ないしは1期終盤から面白くなってくる、あるいは20話から盛り上がってくる、スロースタートな作品であるとの評判がうかがえます。

確かに序盤のエンタメ度合いは抑えめでした。しかし1期がつまらなかったのかというとそれは違うと思います。

 

リライズという作品は描写が丁寧で全体の計画もしっかりしているのが特徴です。

そのため序盤の個別のキャラクター担当回も、パル編の4~5話、カザミ編の6~7話、ヒロト編の8~9話と、複数話をセットでエピソードをつくる事が多く、キャラクターが掘り下げられる反面、盛り上がりとしてはタメの回が出来てしまう事は良し悪しあったとは言えるでしょう。

 

ですが、とにかく全体の計画がしっかりしている作品なので、無駄な描写はまるでなく、一貫してある程度の面白さが維持されています(ただし初期カザミの迷惑ぶりがキツすぎる、みたいな瞬間はあるかも)。「あえて言及するほど盛り上がってるわけではないけど、その割に不思議なほど毎週楽しみにしてるな」というのが10話あたりでの自分の感覚でした。

 

これが、1期クライマックス12話を受けた13話オフ会回あたりから、明らかになった物語の本筋とそれに挑む主人公たちのチームの姿勢が結びつき、完全に面白くなってきます。とくにお調子者のカザミの変化は本当に良く描けていて、作品の見所と言えるでしょう。

そして、19・20話のヒロトの過去編(あまりにもむごい)を皮切りに、チーム全体の成長を描く事で終盤まで温存しておく事が出来た各種の大ネタがバシバシ決まるようになると、めちゃくちゃに面白くなります。

そんな終盤に至っても、序盤から変わる事無く人物描写やモチーフの取り扱いは精緻に行われ、結果作中に描かれてきた全要素が連結して作品を見る者の感情を揺さぶります。

アクションのある回は死ぬほど盛り上がりますが、無い回も変わらぬ満足感があります。

 

リライズは間違いなく傑作ですし、すでにして名作であるといってもかまわないと思います。

ただ、めざましい新規性はなくとも良質で良心的で、作劇におけるごまかしがなく、序盤からの丁寧さを一貫したまま終盤になっての盛り上がりがすごくて、更に言うと前作ファンへの目配せも効いていて、なおかつここに来てプラモの売れ行きも急上昇しているリライズという作品を評するにあたって、少々持って回った言い方を許してもらえるのであれば、「良作というカテゴリーにおける最上」という表現を使いたいですね。

 

 そのほか言いたい事はありますか?

リライズの物語要素は、思い返してみるとすごく大長編ドラっぽいです。

そもそもSFマインドのある少年主人公ものという生態系上の地位が共通してはいるのですが、それにしても獣人の住む別世界で戦争に巻き込まれるという大枠の部分で動物惑星、おもちゃが本物の兵器として使われる点では宇宙小戦争、隔絶を超えるロマンチックという点では宇宙開拓史を思わせますし、品質においても互するものと言えると思います。

 

前作の要素が作中で出てきますので、可能であれば前作も押さえた上で見るとなおのこと良いとは思いますが、一方でこのリクくんというのは前作主人公なんだなと言う事だけわかっていればそれで十分にリライズの物語を楽しめるだろうとも思います。

 

おすすめできる良い作品で、見ればきっと面白いので、縁があれば是非見てくださいね。